最新記事

人権問題

中国のウイグル「虐殺」阻止、バイデンへの期待が高まる理由

2021年1月19日(火)17時20分
デービッド・ブレナン

人権問題を政治利用した男

一方で、中国当局はウイグル人の住宅や墓地、モスクを次々に取り壊し、自治区の中国化を進めている。こうした動きは「文化的ジェノサイド(集団虐殺)」とも呼ばれる。

中国は少数民族弾圧を一貫して否定。再教育施設を建てたのはテロ対策のためであり、過激思想に染まった若いウイグル人に職業訓練を受けさせ社会復帰させることが目的だと強弁している。

中国全土でテロ攻撃を行い、多数の死者を出してきた分離独立派やイスラム過激派を抑えるには、こうした対策が必要だ、というのだ。しかし批判派に言わせれば、テロ被害に対して収容施設の規模はあまりに大きく、どう見てもその実態は「強制収容所」だ。

中国を目の敵にするトランプ政権はウイグル人弾圧を声高に非難してきた。マイク・ポンペオ国務長官は中国当局の弾圧を「世紀の汚点」と呼び、マイク・ペンス副大統領は抑圧された人々と連帯すると宣言。ドナルド・トランプ大統領も超党派の議員の圧倒的な支持を得て可決された「ウイグル人権政策法」に署名し、中国政府の人権侵害には制裁措置を取る方針を打ち出した。

ただ、その本気度には疑問符が付く。トランプの国家安全保障担当補佐官だったジョン・ボルトンは退任後に出した暴露本で、トランプは習に収容施設をどんどん建てるよう勧めたと書いている。

人権問題を政治利用しかねないトランプと違って、バイデンなら一貫性ある明確な姿勢を取れると、アーウィンは期待する。

「強制労働防止法案」を支持?

それでも中国に関わる課題は多く、バイデンはそれらの兼ね合いを取らなくてはならない。例えば、気候変動対策で中国と協力するためには貿易合意で譲歩せざるを得ないかもしれない。

バイデンの戦略は未知数だが、中国は利用できるものは何でも利用しようとするはずだ。外交には駆け引きは付き物だが、人権問題は他の課題と切り離して原則を貫いてほしいと、アーウィンは言う。

次期政権の本気度を測る指標として、イリハムはいくつかの具体的な措置を挙げる。第1は「ウイグル人権政策法」が義務付けているように自治区の人権状況を調査して議会に報告するかどうか。

第2に、既に下院で可決され、上院での成立を待つ「ウイグル強制労働防止法案」を支持するかどうかだ。ナイキやコカ・コーラなどの大企業がこの法案に反対しロビー活動を繰り広げている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、12月速報値は改善 物価

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易・経済関係の発展促進で合

ワールド

NYタイムズ、パープレキシティAIを提訴 無断コピ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中