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北朝鮮

コロナ対策でいよいよ「野良猫狩り」にまで乗り出した北朝鮮

2021年1月19日(火)16時15分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

中朝国境付近の北朝鮮兵士(2017年4月) Aly Song-REUTERS

<極端とも言えるコロナ対策を続ける北朝鮮は、コロナそのものよりコロナ対策に振り回されている>

北朝鮮は自国に新型コロナウイルス感染者はいないと主張しつつも、極端とも言えるコロナ対策を続ける北朝鮮。国外からのウイルス流入を恐れ国境を閉鎖し、貿易を停止、都市封鎖令(ロックダウン)を乱発した。物価が高騰し、食糧など物資全体が不足に陥るなど、北朝鮮国民はコロナそのものより、コロナ対策に振り回されている。

<参考記事:「焼くには数が多すぎる」北朝鮮軍、新型コロナで180人死亡の衝撃

「コロナ・パラノイア」に取り憑かれた北朝鮮当局は、エビデンスの有無を問わず、「やばそう」なものを次から次へと除去しようとしている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、今月9日に穏城(オンソン)で「野良猫を撲滅せよ」との指示が下されたと伝えた。その理由は「中国からやって来る動物を通じてコロナが広がることを防止するため」というものだ。

川をはさんで中国と国境を接している穏城には、国境警備の強化のために、朝鮮人民軍の特殊部隊「暴風軍団」(第11軍団)と第7軍団が投入されている。彼らは国境に近づく者は人間でも動物でも即時射殺せよとの指示を受けている。

穏城と同じ咸鏡北道の会寧では昨年10月、暴風軍団の兵士がカラスを射殺する光景が目撃されている。また、両江道(リャンガンド)の内部情報筋によると、普天(ポチョン)郡の国境地帯では今月2日、飛んできた鳥に銃撃を加えた。人が撃ち殺される事例も後を絶たない。

<参考記事:障害のある女性を射殺する北朝鮮軍の「汚れた英雄」

「野良猫撲滅令」も、これらと軌を一にするが、違うのは一般住民に対しても、動物の殺害を指示している点だ。これに対して住民からは一斉に批判の声が上がっている。

「野蛮すぎる指示ではないか」

「人も撃ち殺しているのに、猫を殺すことなど(暴風軍団らにとっては)朝飯前だろう」

中には「食べ物のありかをよく知っている猫が、人間の食糧すら不足している(北)朝鮮になぜ来るのか」と、当局の指示を皮肉る声も聞かれたという。

なお、人間を通じて猫や犬が新型コロナウイルスに感染した事例は報告されているものの、その数はごく少なく、また、猫や犬が人間に感染させた事例は報告されていない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

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