最新記事

朝鮮半島

窮地の文在寅に金正恩から「反日同盟」の危険な誘惑

2021年1月15日(金)17時15分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

外交でも内政でもほとんど成果がなく支持率急落の窮地にある文在寅 Yonhap News Agency/REUTERS

<実は文在寅政権になって以降の韓国の軍備増強は、あからさまに日本を意識している>

今月5日から行われている北朝鮮最大の政治イベント、朝鮮労働党第8回大会に関しては今のところ、次のような点が注目されていると言える。

・金正恩氏が総書記に就任した
・北朝鮮が核兵器開発をより強力に推進していくことが鮮明になった
・アメリカを最大の敵と呼び、敵視政策の撤回を迫った
・金与正氏が少なくとも肩書の上で降格された
・金正恩氏が経済制裁の失敗を率直に認めた

いずれも深く分析する価値のある、興味深い要素だ。ただ筆者としてはさらに、次の点に興味をひかれた。金正恩氏は党中央第7期活動報告で、韓国との南北関係について次のように述べている。

「北南関係の現実態は、板門店宣言の発表以前の状態に逆戻りしたと言っても過言ではなく、統一という夢はよりはるかに遠のいた。(中略)

(南朝鮮は)先端軍事資産の獲得や開発の努力を加速化すべきだの、すでに保有している弾道ミサイルや巡航ミサイルよりも正確で、強力で、遠くまで飛んでいくミサイルを開発するようになるだろうだの、世界最大水準の弾頭重量をそなえた弾道ミサイルを開発しただのと言った執権者の発言から説明すべきであり、引き続く先端攻撃装備を搬入する目的と本心を納得できるように釈明すべきである」

北朝鮮が韓国の軍備増強を非難するのは以前からのことだ。とくに、北朝鮮の力では対応しようのないステルス戦闘機の導入には神経を尖らせている。ただ、これまではそうした韓国の行動を非難しながらも、「納得のいく説明をしろ」とは言わなかった。筆者の記憶では、これが初めてだと思う。

字句通りに読むなら、韓国が筋の通った説明をすれば、北としては納得する余地があるということだ。外交面でも内政面でもほとんど成果がなく、支持率急落の窮地にある文在寅政権としては、これを糸口に南北対話の復活を考えてもおかしくない。

問題は、自国の軍備増強の目的をどのように説明するかだ。現政権の北に対する姿勢がどうあれ、韓国軍は歴史的に北朝鮮を「主敵」として軍備を整えてきた。また、米国の同盟国である以上、ロシアと中国は、少なくとも間接的には仮想敵だ。

しかしそんな説明をしたら、南北関係がいっそう壊れるのは言うまでもない。そもそも距離的に遠い韓国とロシアは安全保障上の摩擦がほとんどなく、友好関係を維持している。中国とも友好関係にあるが、在韓米軍のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備問題を巡っては、中国から事実上の経済制裁を食らった。「中国を念頭に軍備を増強している」などと言ったら、何をされるかわからない。

消去法で残るのは、日本だ。実のところ、文在寅政権になって以降の韓国の軍備増強は、あからさまに日本を意識している。

<参考記事:「日本の空軍力に追いつけない」米国と亀裂で韓国から悲鳴

無論、文在寅政権とて北朝鮮に対し、「日本に対抗するためだ」などと軽々に言えるわけもない。韓国と日本は今なお、米国を介して間接同盟の関係にあるのだから。

しかし金正恩氏としては、文在寅政権が上述したような問いへの答えを迫られれば、このようにしか答えようがないと踏んでいるのではないか。そして、政権維持に窮してそのような誘いに乗るようなことになれば、韓国は米国を中心とする世界的な陣営の中で、いよいよ立場を悪くすることになるだろう。

<参考記事:韓国専門家「わが国海軍は日本にかないません」...そして北朝鮮は

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ--中朝国境滞在記--』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「台湾独立」勢力は断固取り締まるべき、中国共産党幹

ビジネス

訂正-東京外為市場・15時=ドル155円前半、米雇

ワールド

フィリピン、中国との間に協力の兆候 駐米大使「対話

ワールド

アングル:タイ与党に問われる改革実行力、選挙大勝で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 4
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 9
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中