最新記事

北朝鮮

「生意気な青二才」「お前が言うな」批判も浴びた金与正......その降格の背景

2021年1月12日(火)16時10分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

今回の党人事で金与正は肩書の上では降格したが KCNA-REUTERS

<党中央委員会の部長など特定部門を担当する要職に就けば、失政の責任を問われて経歴に傷が付くリスクがある>

北朝鮮の平壌で5日から行われている朝鮮労働党第8回大会で10日、党中央委員138人と委員候補111人が選挙され、続けて行われた党中央委員会第8期1回総会で、政治局常務委員会委員など権力中枢の指導機関メンバーを選出した。

その中で注目を集めているのは、金正恩氏の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長の人事だ。政治局委員候補から外れており、肩書の上では降格と言える。党中央委員会部長の名簿にも名前がない。これまでのスピード出世を考えれば、肩透かしに近い結果と言える。

実際、北朝鮮国内には金与正氏への反発もある。デイリーNK内部情報筋によれば、金与正氏が女性の喫煙を規制しようとしたところ、兄の正恩氏がヘビースモーカーであることを理由に、国内の女性から「お前が言うな」というニュアンスの反発が出たとのことだ。また米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、北朝鮮が昨年6月、韓国の脱北者団体による対北ビラ散布への報復として、金与正氏の主導により韓国との南北共同連絡事務所を爆破した際には、地方幹部から「生意気な青二才」などと批判する声が出たという。

<参考記事:水着美女の「悩殺写真」も...金正恩が神経質になる対北ビラの中身

もちろん、こうした批判は大っぴらに口にできるものではない。秘密警察に知れれば、物理的に「クビ」が飛ぶことになる。しかし長年、強い男尊女卑の風潮に支配され、男性でも40歳以下は子供扱いされると言われる北朝鮮において、金与正氏の台頭にしっくり来ない思いのある人は少なくないのかもしれない。

本来ならロイヤルファミリーである「白頭の血統」の一員として、そんなことを気にする必要もない。それでも、金正恩氏にせよ金与正氏にせよ、その若さゆえに「焦ることはない」との判断が出てきてもおかしくはなかろう。

また、党中央委員会の部長など特定部門を担当する要職に就かなければ、失政の責任を問われて経歴に傷がつくリスクもない。

実際、金与正氏は党中央委員会委員としては21番目の高位に名を連ねており、今後もさながら権力中枢の「遊撃手」として、金正恩氏を補佐していくと見られる。

<参考記事:「急に変なこと言わないで!」金正恩氏、妹の猛反発にタジタジ

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



ニューズウィーク日本版 高市vs中国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「高市vs中国」特集。台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、イラン革命防衛隊をテロ組織に指定 イラン反発

ワールド

アメリカン航空、ベネズエラ便再開を計画 トランプ氏

ワールド

米軍、イラン巡る大統領の決断「実行の準備」 国防長

ワールド

トランプ氏「ロシアがキーウ攻撃1週間停止に同意」、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    致死率高い「ニパウイルス」、インドで2人感染...東…
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中