最新記事

アメリカ

報道機関の「真ん中」の消失、公共インフラの惨状が深めた分断

2020年12月29日(火)17時20分
金成隆一(朝日新聞国際報道部機動特派員)※アステイオン93より転載

ケーブルテレビは報道より意見が目立ち、FOXニュースは「報道45%、意見55%」、MSNBCは「報道15%、意見85%」(2018年、ニューヨーク) Eduardo Munoz-File Photo-REUTERS


<『ルポ トランプ王国』で話題の金成隆一氏は、アメリカ社会は「真ん中」が抜け落ちたようだとする。「真ん中」の2つ目は「パブリックの軽視」だ。論壇誌「アステイオン」93号は「新しい『アメリカの世紀』?」特集。同特集の論考「真ん中が抜け落ちた国で」を3回に分けて全文転載する(本記事は第2回)>

※第1回:労組に入らず、教会に通わない──真ん中が抜け落ちたアメリカから続く

真ん中が抜けたメディア

メディアも、他者と出会える場としての中間集団と捉えることができないだろうか。メディアが多様な視点を伝えていれば、人々は自分と異なる考え方と接する機会を得られる。ところが、党派色の強い番組が多いケーブルニュースが影響力を強める現代アメリカでは、そうした機能が落ちているのではないだろうか。

最近はケーブルニュースの存在感が強い。ピュー・リサーチ・センターが2016年大統領選に関して「最も役立った情報源」を調べたところ、ケーブルニュース(24%)と答えた人が最多だった。

ケーブルニュースとは、衛星放送の24時間ニュース専門チャンネルで、CNN、MSNBC、FOXニュースの三つが存在感を示している。政治的な立場をはっきりさせた番組が多いことが特徴だ。事実を伝える「報道」より、視点や解釈を交える「意見」が目立つ。2012年の調査では、ケーブルニュースの全放映時間に占める、意見の割合は63%で、報道の割合(37%)を上回っていた。CNNは「報道54%、意見46%」で報道が上回っていたが、FOXニュースは「報道45%、意見55%」、MSNBCに至っては「報道15%、意見85%」だったという。

CNNとMSNBCはリベラル寄りで、トランプ政権を批判的に扱う番組が多い。一方、FOXニュースは保守的で、人気番組でトランプ政権を擁護してきた。

かつては「三大ネットワーク」と呼ばれる地上波3局(ABC、CBS、NBC)が存在感を放ち、看板アンカーが、その日に起きたことを夜に伝える「イブニングニュース」は、幅広い層から信頼を集めていた。中でも「CBSイブニングニュース」のアンカー、クロンカイトは「アメリカで最も信頼される人物」とも称され、彼が「さらなる介入は大失敗になる」とベトナム戦争を批判した際には、当時の大統領ジョンソンが「クロンカイトの支持を失ったことは、大多数の国民を失ったようなものだ」と発言したとされている(前嶋和弘「危機に瀕するアメリカのメディア」、『現代アメリカ政治とメディア』所収、東洋経済新報社、2019年)。当時の三大ネットワークには、党派に左右されない「真ん中」メディアとして機能していた様子がうかがえる。しかし、1980年代以降にケーブルテレビが相次いで誕生して以降、三大ネットワークの影響力は低下し、「真ん中」としての機能も落ちたと言えそうだ。

この傾向は2019年の最新調査にもくっきりと出た。ニュースの主要な情報源にFOXニュースを挙げた人のうち、自身の党派認識を「共和党支持者か共和党寄り」と答えたのが計93%だった。一方、リベラル色の強いMSNBCを主要な情報源とした人に同じことを聞くと、「民主党支持者か民主党寄り」は95%だった。真逆である。日本でもよく知られているニューヨーク・タイムズやCNN、NPRを主要な情報源とした人にも、民主党寄りの傾向が色濃く出ている。

asteion20201229kanari-2-chartB.png

「アステイオン」93号97ページより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中