最新記事

植物

植物学者が称した「世界で最も醜いラン」、マダガスカル島で発見される

2020年12月23日(水)18時30分
松岡由希子

英キュー王立植物園の植物学者が「世界で最も醜いラン」と称した...... Photo: Rick Burian

<英キュー王立植物園の植物学者ヨハン・ヘルマンス名誉助教によって、マダガスカル島で発見されたランが、「世界で最も醜いラン」と称された......>

ランの一種「ガストロディア・アグニセルス」が、英キュー王立植物園の植物学者ヨハン・ヘルマンス名誉助教によって特定された。大きく豪華な美しい花をつける他のランと異なり、小さく茶色いグロテスクな花をつけることから「世界で最も醜いラン」と称されている。

ライフサイクルの大半を地下で過ごす

このランは、葉や光合成のための組織を持たず、菌根菌との共生によって必要な養分を摂取し、地下茎から成長する。生活環(ライフサイクル)において大半を地下で過ごし、地上に姿を現すのは、毎年8月と9月、開花したり、果実を実らせたりするときに限られている。花は長さ11ミリほどと小さく、色が茶色から白であるため、判別しづらい。

「ガストロディア・アグニセルス」は、1990年代にマダガスカル島南東部ですでに見つかっていたが、別種の「ガストロディア・マダガスカリエンシス」だとみられていた。ヘルマンス名誉助教は、2017年12月、マダガスカル島南東部ラノマファナの常緑樹林での実地見学で「ガストロディア・アグニセルス」を初めて発見。

curt12354-fig-0001-m.jpg

Botanical Magazine

2019年9月に同じ場所を調査したところ、竹が生い茂る湿度の高い森の日陰で、落ち葉やコケなどに紛れて、外側が茶色く内側が赤い花が咲いているのが見つかった。この花はジャコウバラ(ムスクローズ)のような心地よい香りを放ち、気温の上昇に伴ってその香りは強くなっていた。

ugly-2.jpg

J. Hermans

個体数は少なく、さらに減少していくとみられる

このランは絶滅危惧種と考えられる。分布域は、ラノマファナ国立公園の保護区をはじめ、マダガスカル島南東部のヴァトヴァヴィー=フィトヴィナニー地域に限られ、個体数は少なく、さらに減少していくとみられるためだ。また、菌根菌との共生の仕組みや受粉の方法など、このランについてまだ解明されていない点も多い。

英キュー王立植物園では、2020年、アフリカ、アジア、アメリカ、英国で、「ガストロディア・アグニセルス」を含め、植物および菌類およそ156種を発見している。

マダガスカル島では、2種のアロエも発見されたほか、ナミビアでは、高温少雨にも耐えうるユニークな鱗状の低木「ティガノフィトン・カラセンス」が見つかった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長

ビジネス

ウニクレディト、BPM株買い付け28日に開始 Cア

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中