中国TPP参加表明の本気度――中国側を単独取材

2020年11月28日(土)20時00分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

なぜ今なのか?

Q:では、なぜ今なのですか?

A:それにはいくつかの理由があります。

まず、TPP12が要求している自由化の度合いはレベルが高く、アメリカが入ってからは中国を除外する目的でレベルを高くしていきましたね。しかし今現在のTPP11にはアメリカがおらず、アメリカが強く要求していた厳しい条項が20項目ほど凍結されているので、中国にとってはハードルが低くなり、非常に入りやすくなっているのは周知の通りです。このことはTPP11の定款をご覧いただければ明らかで、世界中の識者、関係者が認めているところです。

しかしアメリカがTPPに戻ってきてしまった後では遅すぎます。アメリカが戻ってくる前に加入に挑戦しなければならない。この機会を中国が逃すことはありません。

Q:だとすれば今までだって、アメリカが離脱した後なら入ろうと思えば試みることができたはずですが、なぜ最終段階の習近平の意思表示が今になったのですか?

A:いい質問です。中国は2017年1月に外交部を通して意思表示したように、まずはRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の協定を成立させてからTPP11への参入に取り掛かる用意があると回答したはずです。このたびRCEPが締結されました。だから戦略通りに次にTPP11への参入に取り掛かるのです。

Q:なぜRCEPが締結されないとTPP11への参入交渉に入らないのですか?

A:これも鋭い質問だ。それはRCEPにおけるGDP規模の最大国は中国で、中国とASEAN諸国との仲は非常に良いので、あとは日本との関係を良くしておけば、中国のRCEPにおける発言権が大きくなるからです。その上でTPP11のメンバー国と交渉すれば、当然中国には有利になります。

Q:だから王毅外相が、このコロナの中でも、オンライン対話ではなく実際に訪日したのですか?

A:もちろんそれもあります。しかし、RCEPに関してはそれだけではありません。RCEPが締結されたということは、RCEP加盟国内において、すでに中国は「最大限の対外開放」と「現有の国有企業の改革」および「知的財産権の保護」を認め、RCEP加盟国は中国のその改革と自由化の度合いを承認したということになります。その資格と発言権の取得を手にした上でTPP11のメンバー国と交渉に入るということが重要なのです。もちろん自由化の度合いはRCEPよりTPP11の条件の方がレベルが少し上で、すこしきびしくなっている。

しかし、TPP11のGDP規模最大国である日本はRCEPのメンバー国でもあるので、日本を説得することが肝要になります。交渉相手はアメリカではなく日本ですむのです。だから「今」しかないのです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中