最新記事

感染症

新型コロナウイルスは糖尿病を引き起こす? 各国で症例相次ぐ

2020年10月26日(月)12時40分

これまでにも、インフルエンザや既知のコロナウイルスなどによる感染症と関連した1型糖尿病の症例はあった。感染によって人体がストレスを受け、血糖値が上がることは分かっている。だが、これは糖尿病になりやすい素因を持つ人に生じやすい症状だった。最終的に糖尿病を発症する人は一部に限られ、科学者らはその理由をまだ完全には理解していない。

今年になって医師たちが目にしているのは、加齢や肥満といった2型糖尿病のリスク要因を持たないのに、COVID-19罹患後に糖尿病の急性症状を発現する人々である。

1型糖尿病の場合、初期症状として極端な喉の渇き、頻尿、体重減少などがある。アーサー・シミスさんには、これらが糖尿病の徴候とは全く分からなかった。

この夏、アーサーさんと妻のサラさんは、12歳の息子アティカスくんがやせた様子で、寝てばかりいることに気づいた。夫妻は、パンデミックのために家に閉じこもってばかりいるストレスか、成長期にあるせいだろうと考えた。

7月9日、アティカスくんの症状が続くため、アーサーさんは息子をネバダ州ガードナービルの自宅に近い緊急医療センターに連れて行った。医療スタッフは血糖値と尿中のケトン値が危険な高さになっていることに気づいた。どちらも、アティカスくんが糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に陥っていることを示していた。

医師はシミスさんに、新たに診断された1型糖尿病による昏睡を回避するには、直ちに病院での治療が必要だと告げた。父子は最も近いリノの病院まで50マイルを救急車で運ばれた。

このときアーサーさんは「どうして息子が糖尿病に」と医師たちに尋ねたという。「ひどく恐ろしかった」──。

アーサーさんは、息子が新型コロナウイルスに感染していたと考えている。この春、妻サラさんとともに症状が見られたからだ。夫妻は緊急医療センターを訪ねたが、当時は検査実施の基準が厳格化されていたため、新型コロナウイルスの検査は受けなかった。カルテによれば、集中治療室(ICU)での検査ではアティカスくんは新型コロナ陰性と診断された。だが、何週間も前にウイルスを身体に取り込んでいたか否かを判定する抗体検査を受けたことはない。

経済的困窮という追い打ち

糖尿病の急性症状から生還しても、新たに糖尿病の診断を受けた患者の生活は激変する。投薬その他糖尿病を管理するための医療用品には毎月数百ドルの費用がかかり、多くの地域では、内分泌科医の診察を受けるには長く待たされるのが一般的だ。

アリゾナ州の患者、ブエルナさんの場合、診断を受けてから2カ月以上も経過したが、継続的な血糖値測定の保険適用については、加入しているメディケイド制度での承認待ちが続いている。病気のために彼は何週間も仕事に行けず、家計は窮迫した。妻のエリカさんは妊娠8カ月で、3歳の娘カタリーナちゃんもいる。ブエルナさんがまだICUにいた8月2日、一家は立ち退き通知を受けた。食事をフードバンク(無料給食所)に頼ることもある。

ブエルナさんは入院中、家族の見舞いも制限されたことでうつ状態に陥ったという。元気づけてくれたのは、姉妹からの電話だったという。

「子どもたちの成長を見守れるように、元気になりたい」と彼は言う。「まだ、この世を去るわけにはいかない」と──。


Chad Terhune(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・フランスのコロナウィルス感染第二波が来るのは当然だった・・・・
・巨大クルーズ船の密室で横行する性暴力



ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メルツ独首相の単一欧州証取構想、ラガルドECB総裁

ワールド

プーチン氏、ロシア核戦力の試験を視察 即応態勢を確

ワールド

パレスチナ国家承認、米国民の6割支持=ロイター/イ

ワールド

潜水艦の次世代動力、原子力含め「あらゆる選択肢排除
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中