最新記事

日本経済

スガノミクスは構造改革を目玉にせよ──安倍政権ブレーンが贈る3つのアドバイス

THE MAKING OF SUGANOMICS

2020年10月23日(金)17時15分
浜田宏一(元内閣官房参与、米エール大学名誉教授)
菅義偉

就任会見で菅は「規制改革を政権のど真ん中に置いている」と述べた REUTERS

<安倍政権の成果を土台に菅首相が次の段階に進むには何が必要か。前内閣官房参与・浜田宏一氏が3つのアドバイスを贈る>

歴代最長の在任日数を記録した安倍晋三前首相の辞任に伴い、後継者の菅義偉が直面する最大の問題の1つは安倍政権の一丁目一番地だった経済政策をどうするかだ。

長年、安倍の下で内閣官房長官を務めた菅は既にアベノミクスの継承を誓っている。当然だろう。この戦略は日本経済の再生に大きく貢献した。特筆すべきは雇用の伸びだ。第2次安倍政権が発足した2012年から新型コロナウイルスの感染拡大が始まる直前の2019年末までに雇用者数は500万人近く増えた。

菅は自ら誓ったとおり経済政策では安倍路線を踏襲すべきだ。だが「言うは易く行うは難し」。国内には抵抗勢力がいるし、国外ではアベノミクスは誤解されている。

外国人ウオッチャーはアベノミクスの雇用創出効果を軽視しがちだ。平均賃金が上がっていないためだが、それには訳がある。日本には「正規」と「非正規」の二重構造の労働市場があり、それが改善されない限り、賃上げ効果は雇用者全体に及ばない。

安倍政権の成果を土台に菅が次の段階に進むには何が必要か。まずはアベノミクスの3本の矢の1つ、金融政策を見てみよう。アベノミクス以前には欧米諸国が大胆な金融緩和に舵を切ったために円高が進み、日本の輸出産業の競争力が低下していた。当時の日本銀行は大幅な緩和には気乗り薄だった。

安倍は2013年に黒田東彦を日銀総裁に任命。黒田は異次元の量的緩和に踏み切り、おかげで最初の2年間は円相場が下がり輸出産業は息を吹き返した。

成長戦略では愚直に信念を貫け

2015年以降、特に16年初めにマイナス金利が採用されて以降は通貨供給量の増加が円安に直結しなくなり、この政策の効果は薄れた。だが人手不足を補うため企業は活発に設備投資を行い、経済は堅調を保った。

コロナ危機の発生後は金融政策が経済を下支えする切り札となった。そのため菅に向けた私の1つ目のアドバイスは、引き続き金融緩和を推進することだ。黒田を信頼して大船に乗った気持ちでいればいい。

アベノミクスの2本目の矢は柔軟な財政政策だ。安倍は消費税率引き上げを2度延期し、しばしば財政ハト派と呼ばれた。これはもう1つの誤解だ。安倍政権は一貫して基礎的財政収支(プライマリーバランス)の均衡を目指し、一定の改善を達成してきた。そもそも財政収支は常に均衡していなくてもいい。この考えは経済学の主流になりつつある。インフレ率がごくわずかで、金利がGDP成長率より低い日本では、財政赤字は現在だけでなく、未来の世代にとってもプラスの効果をもたらし得る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中