最新記事

ロボット

生きたマウスの腸内で極小ロボットが移動に成功 薬剤運搬を想定

2020年10月22日(木)18時40分
松岡由希子

硬貨の上におかれた極小ロボット  Purdue University image/Georges Adam

<極小ロボットをマウスの結腸内で移動させる実験に成功した。その様子をリアルタイムで観察した...... >

米パデュー大学の研究チームは、体内で薬剤を運搬する極小ロボットを開発し、生きたマウスの腸の内部でこれを移動させる動物実験に成功した。一連の研究成果は2020年9月17日に学術雑誌「マイクロマシーンズ」で公開されている。

この極小ロボットは、腸のように起伏の激しい器官の内部でも移動できるよう、後方転回や側方宙返りをしながら移動するのが特徴だ。長さ800マイクロメートル、幅400マイクロメートル、高さ100マイクロメートルという極小サイズゆえ、外部からの磁界によって動力がまかなわれ、ワイヤレス制御される仕組みとなっている。経口薬では、広い範囲に影響を与えて、副作用をもたらすことがあるが、この極小ロボットによって体内の標的部位にピンポイントで直接投与できれば、胃出血などの副作用を防ぐことができる。

マウスの生体内実験に成功、ヒトでも薬剤を投与できるか?

研究チームは、この極小ロボットを直腸から挿入し、麻酔下にある生きたマウスの結腸で生体内実験を実施。超音波装置を用いて、この極小ロボットが結腸の内部で移動する様子をリアルタイムで観察した。

結腸では、液体や固体が一方向に移動するのに対して、ロボットは逆方向に移動しなければならない。この実験では、この極小ロボットが後方転回しながら起伏の激しい結腸の内部を難なく移動する様子がとらえられている。

tumbling-in-vivo.gif(Purdue University video/Elizabeth Niedert and Chenghao Bi)

また、研究チームは、ヒトと似た腸を持つブタから切除した結腸でも、この極小ロボットが後方転回しながら移動できることを示した。研究論文の共同著者であるパデュー大学のクレイグ・ゴエルゲン准教授は「ヒトやその他の大きな動物では、数十台のロボットが必要になるだろうが、これはすなわち、複数の部位を標的に複数の薬剤を投与できることでもある」と述べている。

極小ロボットが薬剤を運搬・放出する実験にも成功

研究チームでは、この極小ロボットが薬剤を運搬・放出する実験にも成功している。蛍光の擬薬でコーティングされたこの極小ロボットは、生理食塩水の中で後方転回しながら移動した後、コーティングした擬薬を1時間かけてゆっくりと拡散させた。

ポリマーと金属でできたこの極小ロボットは安く製作でき、無毒で、生体適合性があることも確認されている。研究チームでは、薬剤の運搬手段だけでなく、診断ツールとしても、この極小ロボットを活用できるのではないかと期待を寄せている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中