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「習近平vs.李克強の権力闘争」という夢物語_その1

2020年9月1日(火)18時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

今年はコロナの影響があり、2020年3月末から動き出したのが四川省の成都市だった。成都市を北京市や上海市のような昔からある第一線都市と区分けするのは困難で曖昧性がある。つまり改革開放後に発展を遂げた新興の都市としては第一線に入れられなくもない。その微妙な線上にある成都市は露店経済で賑わっていた。北京や上海のように対外的に「おしゃれ」である必要がないという側面もあり、庶民のボトムアップの経済的欲求の方が勝っていた。

中共中央文明弁では、そういった社会背景も踏まえながら、成都市の現状とコロナ後の中国経済の現状を詳細に討議し、露店業に関して中共中央で「審査の対象としない」=「許可する」という決議を出したのである。

中国では早くから、「露店の許認可」は「各地方政府が決定する」形を取っているから、李克強の記者会見のあと、北京市や上海市のような第一線都市は「わが市はやりませんよ」という、従来通りの声明を「地方政府」として出した。露店の許可審査は各地方都市の政府がするからだ。

改革開放が進む中で、環境問題や外国人観光客などへの配慮から中央で抑制する方向に動けと各地方都市に指示を出していたが、コロナで大きな打撃を受けたので、今年は中央で「審査対象としない」という決議を出して各地方行政にシグナルを出したということになる。

コロナの影響で経済が落ち込み、誰もが露店をやりたがり、これまでのしきたりを知らない北京の若者たちもやろうとしたので、改めて北京や上海などの第一線都市は都市行政として「もともと許可していない」し「今回も許可する都市には入っていない」という再確認の通知を出したに過ぎない。

この中国政治の基本構造と経済的な社会背景を知らない日本の権力闘争論者たちは、これぞ「権力闘争の証拠」とばかりに飛びついたわけだ。

習近平は中共中央総書記である。中共中央文明弁のトップにいるのは王 滬(こ)寧だが、その上にいるのは言うまでもなく中共中央総書記・習近平。習近平の許可なしに王 滬寧が一人で意思決定することはあり得ない。

つまり5月27日に習近平がトップを務める中共中央の許可を経た上で、李克強は28日の記者会見に臨んだことになる。

権力闘争論者は、ここまでの事実を掌握せずに、論理的に事実に反した「煽り記事」を書き続けている。

2.「平均月収1000元の人が6億人」発言

李克強は同じ記者会見で「中国の平均年収は3万元だが平均月収が1000元の人が6億人もいる」と発言した。

これに対して日本の権力闘争論者たちは、「習近平の了承を得ずに中国の貧困の実情をばらしてしまった。これは貧困脱却を謳っている習近平への重大な反逆だ」と主張している。

この主張がいかに事実無根であるかを示そう。

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