最新記事

感染症対策

ロシアの新型コロナワクチン「スプートニクV」、抗体反応確認=英医学誌ランセット

2020年9月5日(土)11時55分

ロシアが開発した新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」に関する初期の臨床試験で全ての参加者に抗体反応が確認された。写真は4月10日撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

ロシアが開発した新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」に関する初期の臨床試験で全ての参加者に抗体反応が確認された。英医学誌ランセットが4日、試験結果を掲載した。

臨床試験は76人を対象に6-7月に2度行われた。100%の参加者が新型コロナウイルスに対する抗体ができたことを確認し、大きな副作用はなかった。

ロシアは8月、データの公表や大規模な臨床試験をする前に、世界に先駆けて国内用にこのワクチンを認可した。

ランセットは「42日間にわたる38人ずつの二つの試験で重大な副作用はなく、ワクチン候補で抗体反応が出たことを確認した」と説明。「長期的な安全性と効果を立証するには、偽薬を含む大規模で長期間の臨床試験が必要だ」と指摘した。

旧ソ連時代の世界初の人工衛星にちなんで名付けられたワクチンに対して、西側諸国の専門家は、国際的に認められた試験と認可の手続きを取ってから使用すべきだと警告していた。

世界的な医学誌に結果が掲載され、先週には4万人が参加する後期の臨床試験が始まっており、ワクチン開発を支えるロシア直接投資基金トップのキリル・ドミトリエフ氏は「これによって、西側諸国がロシアのワクチンをおとしめる目的でこの3週間念入りに聞いてきた全ての疑問に答えたことになる」と述べた。「全てがクリアされた。今度はわれわれが西側のワクチンについて質問する番だ」とロイターに語った。

ドミトリエフ氏は先週から始まった大規模試験に少なくとも3000人がすでに充てられたと述べた。初期の結果は10月か11月に出るという。

世界では複数の製薬会社が既に、それぞれ数万人の参加者を得て、後期の臨床試験を進めており、英アストラゼネカや米モデルナ、米ファイザーを含むいくつかは年末までにワクチンの効果と安全性が分かる見込みだ。

ランセットは、スプートニックVが初期臨床試験で「T細胞」と呼ばれる免疫システムの構成要素の反応を引き出したと述べた。科学者はコロナウイルス感染症を撃退する上でのT細胞の役割について細かく調べてきた。最近の研究結果は、T細胞が抗体よりも長い間身体を守る効果があることを示す。

ロシアのワクチンは、一般的な風邪を引き起こすヒトアデノウイルス5型(Ad5)とヒトアデノウイルス26型(Ad26)をベクター(運搬者)として2回に分けて投与する。

専門家によっては、この手法では多くの人がすでにAd5への免疫を持っているためワクチンの効果は低いと言う。

ワクチンを開発したガマレヤ記念国立疫学・微生物学研究センターの開発者の1人はロイターに対して、安全性を確保した上でこれまでの免疫を上回る量のAd5を使用していると述べた。Ad5よりまれなAd26を合わせることで、双方の免疫を持ち合わせる人は限られているためワクチンの効果がさらに高まると説明した。

ロシアはこれまで、このワクチンを年末までに月々150万ー200万回分生産するとの見通しを示している。徐々に月600万回分に生産を増やすという。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず

・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死


20200908issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月8日号(9月1日発売)は「イアン・ブレマーが説く アフターコロナの世界」特集。主導国なき「Gゼロ」の世界を予見した国際政治学者が読み解く、米中・経済・テクノロジー・日本の行方。PLUS 安倍晋三の遺産――世界は長期政権をこう評価する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中