中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿勢と内部腐敗の実態
Taiwan’s Military Not Ready for China
黄の残したメモによれば、米軍では幅広い専門分野で競争を経た民間企業が起用されているが、台湾軍に雇われている民間人はたいていさまつな事務作業のみを担当している。そもそも台湾軍は部隊の構成を決める上で「科学のかけらも」考慮に入れておらず、民間の知恵を借りるという発想すらないという。
そうであれば、問題の根本的な原因は壊れた戦車や整備士の不足にとどまらず、もっとずっと深いところにあるのではないか。取材に応じた複数の人物が、機能不全の組織文化や文民コントロールの欠如、(軍や政界の)無能な指導部に原因があるだろうと示唆していた。
台湾国防部には本稿の内容について、何度もコメントを求めた。だが返ってきたのは「国防部はよく知っているメディアとしか話をしない。独自の調査には返答しかねる」という言葉だった。
いざとなればアメリカに
今回取材を行った軍の現役および元幹部たちはいずれも、国防部長の厳こそが、長年台湾軍をむしばんできた機能不全の指導部の典型だと口をそろえた。彼らは厳について、派手な仕事や写真撮影を優先する一方で、軍の抱えている問題の少なくとも一部を解決できそうな小さな「修正」さえも妨害していると批判していた。
台湾与党の民進党は、歴史的に軍の指導部に批判的で、軍の包括的な改革を提案してきたことで知られる。だが近年は、蔡政権が国防部をまとめる軍幹部と密接な関係を築いたことから、軍に対する批判的な姿勢はかなり弱まっている。その分かりやすい例が厳の存在で、かつて軍の上級将校だった彼を国防部長に抜擢したのは蔡自身だ。
かつて装甲旅団の司令官を務め、今は野党・国民党系の団体を率いる于は言う。「台湾の軍隊をまともにしたければ、政治家を喜ばせることしか考えないタイプではなく、本気で兵士のことを考え、どうすれば戦場で勝てるかを真剣に考える人材を防衛のトップに据えるべきだ」
国際戦略研の常も、台湾の防衛能力をことさらに誇示する蔡政権の姿勢には問題があると語る。彼のみるところ、蔡政権の体質は敗北主義で、中国との関係は(軍隊ではなく)政治で解決すればいいと考えている。
「本音の部分では、現政権は台湾が軍事力で中国に対抗するのは無理だと考えている」と常は言う。「今の強硬姿勢は見せ掛けにすぎない。アメリカから買った最新兵器を誇示するだけで、本当に中国が攻めてきたらアメリカが助けてくれると信じ、そういうシナリオに懸けている」
しかし台湾の新聞を読むまでもなく、中国側のスパイは台湾軍の兵士が兵員輸送車の部品をネット通販で探しているのを知っている。台湾軍がまともに戦える状態にないことも把握している。しかし、それで台湾の軍人には祖国防衛の覚悟がないと結論するのは間違いだ。于は言う。
「退役軍人の1人として、これだけは言える。わが軍の兵士や将校団の祖国防衛に懸ける決意には一点の曇りもない。いざ戦場に立てば、彼らは立派に任務を果たす。たとえ装備が足りなくても」
<本誌2020年9月22日号掲載>
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