最新記事

誤解だらけの米中新冷戦

中国とのライバル関係を深刻に扱うべきでない理由

STAY CALM ABOUT CHINA

2020年9月16日(水)19時00分
アナトール・リーベン(ロンドン大学キングズ・カレッジ教授〔政治学〕)

magSR200916_China2.jpg

東ベルリンで開かれたソ連支持の青年集会(1950年) FPG/GETTY IMAGES

だが比較的短期間のうちに、ソ連の脅威はかなり弱まった。スターリンの死(1953年)により、東欧の共産主義政権はある程度穏健化した。また、スターリンが生前の1949年に、ギリシャ内戦における共産主義勢力の支援から手を引いたことも、ソ連がヨーロッパでアメリカとの直接対決のリスクを冒す気がないことをはっきりと示していた。

ハンガリー動乱(1956年)や東ドイツから西ドイツへの市民の大量逃亡(これが1961年のベルリンの壁建設につながった)を経て、ヨーロッパにおける共産主義の魅力が色あせていることは、1960年代初頭には明らかになっていた。また中ソ間の対立は、中国とアメリカが同盟国に近い関係になる地ならしとなった。

つまり東西冷戦の初めの3分の1の期間を除いて、アメリカを動かす支配層の人々は冷戦について、「ソ連が機能不全の度を深める経済と内部分裂によって押しつぶされるまで一時的に、小規模な衝突と限定的な防戦を繰り返すこと」と捉えることができたはずだった。

もちろん、実際はそうはしなかった。むしろソ連の共産主義との闘争は、アメリカの外交・安保政策全体にとっての総合的な、そして作戦面でもデフォルトの枠組みとなった。あらゆる地域的な問題はこの枠組みにはめ込まれ、ソ連との全方位的な、存在を懸けた闘争という枠組みに合わない地域的要素は分析の対象から除外された。

その結果、ひどい誤解が繰り返され、現在までアメリカは後遺症に苦しんでいる。例えばイランの首相だったモハンマド・モサデクは世俗的な民族主義者だったのに、アメリカは彼を共産主義の工作員だと考えた。ベトナムの共産主義革命はフランスに対する反植民地的・民族主義的闘争の延長線上にあったのに、アメリカはソ連の世界征服計画の一端と見なした。1980年代のアフガニスタンでの戦争は、専制君主による近代化とイスラム教的・部族的な保守主義との長年のせめぎ合いの延長線上にあったのに、ソ連の帝国主義からの解放という枠組みで捉えられた。

限定的な分野の限定的な競争

アメリカは真の国益とは大して関係のない地域紛争に幾度も引きずり込まれた。アメリカの支配層やメディアはそうした地域紛争を、ナチズムやスターリン主義との戦いと同じく、アメリカ主導の「善」と絶対的悪の間の単純明快な戦いとして語ってきた。このイメージに合わせるため、複雑な部分は切り捨てられ、事実はねじ曲げられた。

アメリカ国内に既にあった被害妄想や異文化への恐れ、善か悪かの二元論的世界観は、冷戦によってさらに悪化した。「赤狩り」が終わっても、過剰反応や過激思考、被害妄想の癖は消えず(アメリカの真の危険とはほぼ無関係なものに対してもだ)、今日に至るまで共和党の足を引っ張っている。ベトナム戦争もアメリカ国内の分裂を深め、国民の団結や基本的な政治的コンセンサスに大きな禍根を残した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中