インド系カマラ・ハリスが副大統領になってもインドと蜜月にならない理由
HARRIS'S INDIAN DILEMMA
ハリスが副大統領になると米印関係はどう変わるのか JONATHAN ERNST-REUTERS
<副大統領候補にハリスが指名されたことでインド国内はお祭り騒ぎに。だがイスラム教徒を抑圧し、カシミール問題への他国の関与を拒絶するモディ政権はむしろ米民主党を警戒している>
8月19日、カリフォルニア州選出のカマラ・ハリス上院議員が正式に民主党の副大統領候補に指名された。ハリスは母親がインド出身の移民ということもあり、米インド系移民団体などは「インド系アメリカ人がアメリカで本当のメインストリームになる」と大絶賛している。
ハリスの指名は、インド国内でも大きな反響があった。メディアやSNSでは彼女のインドのルーツが話題になり、お祭り騒ぎになった。インドメディアでは、モディ首相のおかげで近くなった米印関係のさらなる関係強化を期待する声が上がった。
だが現実には、民主党が副大統領候補としてハリスを選択したことは今後、インドとの関係で問題を引き起こす可能性がある。米国内外で「両刃の剣」にもなりかねない。
その理由の1つに、モディが率いる与党「インド人民党(BJP)」がヒンドゥー至上主義政党であり、それに米民主党がどう対応していくのかがある。モディ政権は昨年12月、不法移民に市民権を与えるインド市民権改正法(CAA)を成立させたが、それまでも疎外してきたイスラム教徒のみを対象外にし、各地で抗議デモが発生した。
人権や公民権などを重視する米民主党はこの事実にどう対応するのか。少なくとも、中国のウイグル族に対する抑圧を批判しつつ、インドのイスラム教差別に目をつむるのはダブルスタンダードと言われかねない。
実はモディ政権は以前からハリスの言動を警戒している。特に、インドが絶対的ライバルであるパキスタンと領有権を争うカシミール問題についての発言だ。カシミール紛争はインドで最もセンシティブな問題の1つで、他国の関与を一切拒絶してきた。
カシミール地方とは、インド北部とパキスタン北東部に広がる地域のことを指す。インド側カシミールにはイスラム教徒が多く暮らすこともあって、1949年に特別な自治権が与えられたが、モディは2019年8月に自治権を剝奪。しかも現地が暴発しないよう、厳しい外出禁止令を敷いた。住民は何カ月もインターネットやスマホの通信を禁止され、多くが仕事すらできない状態に陥った。
この事態に、当時ハリスはモディ政権を批判し、「必要なら介入もある」と発言。また、別のインド系の米下院議員がカシミールの通信遮断を中止するよう促す議会の決議を求めた際も、ハリスは支持を表明している。
こうした動きから、モディ政権はハリスの副大統領候補指名を、もろ手を上げて歓迎するわけにはいかない。それどころか、激震が走ったはずだ。
【関連記事】副大統領候補ハリスが歩み始めた大統領への道 バイデンが期待する次世代政治家の「力」
【関連記事】カマラ・ハリスは2024年のアメリカ大統領になる!【パックン予測】