最新記事

女性問題

28歳妊婦まで犠牲に... ロックダウン緩和で「フェミサイド」急増の南アフリカ

2020年8月3日(月)19時10分
パトリック・エグウ

プレが殺害された事件を審理中の裁判所前に集まった活動家たち SHARON SERETLO-GALLO IMAGES/GETTY IMAGES

<犯罪率が飛び切り高い南アフリカで、パンデミックに起因する高失業率と経済格差から家庭内暴力がいっそう深刻化している>

6月11日、28歳の女性ツェゴファツォ・プレのひつぎの周囲にマスク姿の人々が集まっていた。妊娠8カ月だったプレは南アフリカ最大の都市ヨハネスブルクの郊外で、胸を刃物で刺され、木につるされた状態で発見された。

犠牲者はプレだけではない。南アフリカでは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けて6月1日に始まったロックダウン(都市封鎖)が徐々に緩和された後、フェミサイド(パートナーなどによる女性を標的とする殺人)やその他のジェンダーに基づく暴力と殺人(GBVF)が増えている。

女性に対する暴力は以前から深刻な社会問題ではあったが、コロナ禍の中で続発する事件に国中の怒りが爆発。ハッシュタグ「#StopKillingWomen 」がSNS上でトレンドとなり、何千人ものユーザーが女性に対する暴力の増加を非難した。

ラマポーザ大統領はテレビ演説で、最近数週間で21人の女性と子供が殺害されたと指摘(注目を集めた事件の犠牲者のみ。実際の数字はもっと多い可能性が高い)。GBVFを「もう1つのパンデミック」と表現した。

南アフリカは女性に対する暴力の発生率が世界で最も高い国の1つ。3時間に1人の頻度で女性が殺害されているという報告もある。

最新の犯罪統計によると、2018~19年に警察が把握した女性に対する犯罪は17万8000件近い。そのうち8万2728件が暴行事件だ。女性の殺人事件は2771件、殺人未遂も3445件あった。警察には性暴力の報告が2019年だけで8万7000件寄せられている。

南アフリカの男性は女性を劣った存在と見なす傾向が強い。犯罪率が飛び切り高いこの国で、女性たちは社会的不平等だけでなく、身の危険にもさらされている。

特にパンデミック後は、高失業率と経済格差を背景とする家庭内暴力が深刻化している。警察によると、9週間の酒類販売禁止措置の終了と共に女性や子供に対する犯罪や暴力が急増したという。野党の「経済自由の戦士(EFF)」は、女性たちを守れない政府を批判している。同党の議員ムブイセニ・ヌドロジはプレの葬儀でこう言った。

「私たちが互いに1メートル離れていることを確認しようと、大勢の警官が来ている。銃を持って、50人以上も。しかし、(プレが殺されたとき)彼らはどこにいたのか? 死を悼む場に彼らは必要ない。死の悲しみを止めるために彼らが必要なのだ」

【関連記事】「世界陸上断念の女子陸上セメンヤ選手はただの女性、レイプのような検査をやめて出場させてほしい」
【関連記事】南アフリカで遺体レンタルが流行る理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中