最新記事

中国

習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?

2020年7月7日(火)11時05分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

●現に中国の庶民が自分の財産を蓄えたのは、民主主義のお陰じゃないですよ!今の指導体制の中で自由に商売やっていいからリッチになっただけで、僕たちは民主主義の国家に爆買いに行って民主主義国家を潤している。民主主義の国家は僕らがいないと困るんじゃないんですか?

「じゃあ、言論の自由とかは求めないの?」と聞くと、以下のような回答が戻ってきた。

●そうですね、それは多少ありますね。ネットでうまく情報が取れないという不便さは確かにあります。でもそれも娯楽に関する情報を求める若者とかが多くて、そのためのソフトとか手段は色々ありますから、そんなことのために政権を倒そうとかって思う人はいないでしょう。そんなことに人生の貴重な時間を使うのはもったいないです。

●大陸にも少数の人権派弁護士っていますが、民主化運動って多くの若者がついていかないと成立しません。

●香港だって、2047年には必ず中国本土に完全に返還されるんだから、それまでの民主とか自由とかって、どういうメリットがあるのか正直よく分かりません。

たしかに香港の貧富の格差は激しく、貧乏な者は一生涯努力してもリッチにはなれず、富裕層と貧困層の収入には44倍もの差がある。失うものがないということが「せめて尊厳を求めて」という気持ちに拍車をかけているのは否めない。

それに比べて同じ「一国二制度」を実施しているマカオで民主運動が起きないのは、マカオでは貧富の格差がほとんどないだけでなく、一人当たりのGDPは2019年統計で872万円、世界第3位だ。マカオ政府全体がカジノで儲かっているので、毎年一人につき日本円で10万円ほどの現金を配布しており、医療・教育・老後保障などの福祉も非常に手厚い。これでは「民主化しろ!」と叫ぶ若者はいないだろう。国家安全法の導入など、マカオの方から北京に望んだくらいだ。中国に返還された後、カジノにまつわる暴力団の抗争が無くなってカジノを中心とした観光業で繁栄している。

筆者は言論弾圧をする中国と生涯にわたり闘ってきた。食糧封鎖され数十万に及ぶ餓死者を生んだ事実(1948年)を中国が認めないからだ。認めないだけでなく、中国共産党にとって不利な事実を書いた者は罪人となる。

この中国と闘うには、民主主義の良さを発揮していくしかないだろう。民主主義国家が連帯を強めることだ。日本人にとっての「希望的危惧」などは役に立たない。

まず日本に出来ることは「絶対に習近平を国賓として来日させない」ことを死守することだ。

言葉で「遺憾」など言っても、相手は痛くもかゆくもない。そのことを肝に銘じるべきだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(実業之日本社、8月初旬出版)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

基調物価「2%に近づいている」、物価高対策や原油高

ビジネス

中東情勢受けた需要抑制対策、中長期的に検討も=赤沢

ワールド

イスラエル、イランがミサイル発射と表明 イエメンか

ワールド

日本の格付け「A+」に据え置き、見通しは「安定的」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカートニー」を再評価する傑作映画『マン・オン・ザ・ラン』
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    カタール首相、偶然のカメラアングルのせいで「魔法…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中