最新記事

中国

中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか

2020年7月6日(月)06時55分
譚璐美(たん・ろみ、作家)

水位が危険な水準に達し、三峡ダムでは6月29日に放水が開始された(写真は2018年) REUTERS

<豪雨により被災者1400万人の洪水被害が出ている中国で、世界最大の水力発電ダムの危機がささやかれている。決壊すれば上海が「水没」しかねないが、三峡ダムの耐久性はほぼ臨界点に達しているかもしれない>

6月半ばの梅雨入り以来、中国の南部と西南部では連日の大雨と集中豪雨により、同月下旬には少なくとも198本の河川が氾濫し、26 の省・市・自治区で洪水が起きている。倒壊家屋は1万棟以上、被災者は1400万人近くに上り、74万人超が緊急避難した。直接的な経済損失は278億元(約4230億円)に上るという。

洪水だけでも大変なことだが、さらに心配なのが、長江中流にある水力発電ダム「三峡ダム」だ。今、大量の雨水の圧力で決壊するのではと危ぶまれている。

三峡ダムは1993年、当時の李鵬(リー・ポン)首相が旗振り役になり、水利専門家たちの「砂礫が堆積し、洪水を助長する」といった反対意見を無視して建設された世界最大の落水式ダムだ。70万キロワットの発電機32基を備え、総発電量は2250万キロワット。長江の中流域の中でも特に水流が激しい「三峡」と呼ばれる峡谷地区に2009年に竣工した。

だが、建設中から李鵬派官僚による「汚職の温床」と化し、手抜き工事も起こった。

2008年に試験貯水が開始されると、がけ崩れ、地滑り、地盤の変形が生じ、ダムの堤体に約1万カ所の亀裂が見つかった。貯水池にためた膨大な水が蒸発して、濃霧、長雨、豪雨が頻発した。そして水利専門家たちの指摘どおり、上流から押し寄せる大量の砂礫が貯水池にたまり、ダムの水門を詰まらせ、アオコが発生し、ヘドロや雑草、ごみと交じって5万平方メートルに広がった。

もはや中国政府も技術者も根本的な解決策を見いだせず、お手上げ状態だったのだ。

そこへもってきて、今年の豪雨と洪水だ。

6月22日、長江上流の重慶市では豪雨により、がけ崩れ、鉄砲水、道路の冠水、家屋の浸水、高速道路の崩壊などが発生。市水利局は1940年以来初めて最高レベルの洪水警報を発令し、4万人の市民が避難した。29日には三峡ダムの貯水池の水位が最高警戒水位を2メートル超え、147メートルに上昇。そのため、三峡ダムを含む4つのダムで一斉に放水が開始された。

気象当局によると、今夏は大雨や豪雨が予測され、洪水被害はさらに増大すると見込まれている。

中国水利省の葉建春(イエ・チエンチュン)次官は6月11日、記者会見で「水害防止対策により今は建国以来の最大の洪水を防御できているが、想定以上の洪水が発生すれば、防御能力を超えた『ブラックスワン』の可能性もあり得る」と口にした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 5
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 10
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中