最新記事

新型コロナ対策

スウェーデンの悪夢はパンデミック以前から始まっていた

The Failure Started Before the Pandemic

2020年7月1日(水)16時40分
カールヨハン・カールソン

コロナ禍でも夏を満喫するストックホルムの人々(6月24日) TT NEWS AGENCY-REUTERS

<新型コロナ対策で独自のソフト路線がやり玉に挙げられるが、高齢者への感染拡大はそれ以前から必然だった>

スウェーデンは、福祉国家の模範だった。1000万人の住民が、手厚い社会保障のおかげで豊かな生活と平等、社会正義を謳歌していると世界から称賛されてきた。

だがこの数カ月で、そのイメージに疑問符が付いた。新型コロナウイルスの流行を受け、スウェーデンは多くの国と違ってロックダウン(都市封鎖)を実施しなかった。欧州各国で人々が自宅に引きこもるなか、首都ストックホルムでは、人々がテラス席でビールを楽しむ姿が見られた。

公衆衛生の専門家からは、市民の生命より経済を優先しているとの批判が相次いだ。だが同国政府は、目指すところは他国と同じで、社会的に最も脆弱な人々を守りながら医療崩壊を避けることだと反論。違うのは、当局が国民の行動を具体的に指示するのではなく、推奨するという「軽微な接触」戦略を取っていることだけだと主張した。

しかし、同国の死者数が周辺国を大きく上回るペースで増え、5000人を超えたことなどから、批判の声が高まった。さらに死者の多くが、政府が守ると宣言していた高齢者であることも、スウェーデンの信頼性を失わせた。

現在の状況こそ、スウェーデンのソフト戦略が誤りだった証拠だとする声は強い。同国のコロナ対策を主導してきた疫学者アンデシュ・テグネルは、戦略全体は失敗していないし、何が正解だったのかはまだ分からないとする。それでも犠牲が大き過ぎたと認め、現在の知識を持って3月時点に戻れるなら高齢者などにはより厳格な対応を取っていたと語っている。

この発言を無責任だと責めるのは簡単だろう。だが、現実はもっと複雑だ。

まず、そもそもこれを「集団免疫戦略」だとする批判について考える必要がある。純粋な意味での集団免疫戦略は、感染を抑止せずに社会に拡大させることだが、スウェーデンは違う。大規模な集会は禁じられ、社会的距離も推奨されている。テグネルは、戦略は感染ペースを下げるためのもので、集団免疫は副次的なものだと繰り返してきた。

封鎖以外の道も必要だ

さらに、ロックダウンが長期的な死亡率を下げるという科学的な証拠はない、というのがスウェーデンの見解だ。ロックダウンで死者数を抑え込んだ国は、いずれ第2波に見舞われるというのだ。同国の元疫学責任者ヨハン・ギーゼッケは、「感染防止のためにできることは非常に少ない。ロックダウンは重症患者の増加を先延ばしにできるが、規制が緩和されれば状況は元に戻る」と、指摘する。

【関連記事】スウェーデンが「集団免疫戦略」を後悔? 感染率、死亡率で世界最悪レベル
【関連記事】スウェーデンの新型コロナ感染者数が1日最多に、死亡率も世界屈指

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀4月利上げシナリオ複雑に、市場との対

ワールド

スウォルウェル米下院議員、性的暴行疑惑が浮上 加州

ワールド

今年の石油市場、イラン攻撃受け第2四半期に供給不足

ビジネス

マネーストックM3、3月は1.4%増 貸出増で前月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 2
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 5
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 6
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 7
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 10
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中