最新記事

BCGワクチン

「BCGは新型コロナによる死亡率の軽減に寄与している可能性がある」と最新研究

2020年7月14日(火)18時00分
松岡由希子

BCGワクチンは新型コロナウイルス感染症の感染の関係を検証する動きは世界各地で広がっているが日本では...... REUTERS/Mike Hutchings

<BCGワクチンと新型コロナウイルス感染症の感染拡大との関係について検証する動きが世界各地に広がっている......>

「BCGワクチンの全例接種を実施している国は、そうでない国に比べて、新型コロナウイルス感染症の罹患率や死亡率が低い」との仮説のもと、BCGワクチンと新型コロナウイルス感染症の感染拡大との関係について検証する動きが世界各地に広がっている。

「BCGワクチンが新型コロナに作用するメカニズムを解明する必要がある」

対象エリアを限定したこれまでの研究では、相反する結果が示されている。1955年から1982年までBCGワクチンの全例接種を実施していたものの、それ以降は結核の有病率が高い地域からの移民のみに接種対象を限定しているイスラエルでは「定期接種を受けた世代とそうでない世代で、新型コロナウイルス感染症の発症率に差は認められなかった」との研究結果がある一方、1981年まで全例接種を実施していたスペインとそうでないイタリアを比較した米カリフォルニア大学バークレイ校の研究結果では「スペインにおける新型コロナウイルスの罹患率や死亡率はイタリアよりもやや低かった」とされている。

米バージニア工科大学のルイス・エスコバル准教授は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の協力のもと、世界各国の新型コロナウイルス感染症の死亡症例を収集し、年齢分布や人口規模、人口密度、所得、教育や医療へのアクセスなどの要素を考慮したうえで、BCGワクチンの接種と新型コロナウイルス感染症の死亡率との関係を分析した。

2020年7月9日に「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表された予備調査では、「BCGワクチンは新型コロナウイルス感染症による死亡率の軽減に寄与している可能性がある」とし、「BCGワクチンが新型コロナウイルス感染症に作用するメカニズムを解明する必要があるとともに、新型コロナウイルス感染症の重症化防止へのBCGワクチンの有効性についても検証すべきだ」と説いている。

印ジャワハルラール・ネルー大学らの国際研究チームも、同様の研究結果を明らかにしている。2020年5月29日までに新型コロナウイルス感染症の陽性者が1000名以上確認されている国を対象に、「BCGワクチンの全例接種を実施したことがない国」、「かつて実施していたが中止した国」、「現在もBCGワクチンの全例接種を実施している国」の3種類に分け、新型コロナウイルス感染症の罹患率や死亡率との関連を分析した。

BCGワクチン接種の方針が異なっていた旧西ドイツと旧東ドイツ

7月8日にオープンアクセスジャーナル「セル・デス&ディジーズ」で発表された研究結果によると、現在もBCGワクチンの全例接種を実施している国は、BCGワクチンの全例接種を実施したことがない国よりも新型コロナウイルス感染症の罹患率が低く、死亡者数もこれら3分類の中で最も少なかった。

1990年のドイツ再統一以前はBCGワクチン接種の方針が異なっていた旧西ドイツと旧東ドイツで新型コロナウイルス感染症の重症化率を比較した独カール・グスタフ・カルス大学病院らの研究チームも、これらの研究成果を裏付けている。東ドイツでは1953年から1998年までBCGワクチンの全例接種が実施されていた一方、BCGワクチンが1955年から任意接種とされていた西ドイツでは、その接種率は新生児の7〜20%にとどまり、1977年にはワクチン接種が中止された。つまり、旧東ドイツの高齢者は、旧西ドイツの高齢者よりもBCGワクチンを接種している割合が高い。

6月18日に学術雑誌「レウケミア」で発表された研究結果では「ドイツ西部はドイツ東部よりも新型コロナウイルス感染症の罹患率や死亡率が高い」ことが示されている。

新型コロナウイルス感染症に対するBCGワクチンの効果を検証する臨床試験は、米国ドイツ豪州オランダなどで、現在すすめられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏で財政緊縮巡りデモ・スト、100万人参加と労組 

ワールド

国連安保理、ガザ停戦決議を否決 米が6回目の拒否権

ワールド

人民元相場、米国よりも欧州にとってより大きな問題=

ビジネス

SBG「ビジョン・ファンド」、2割レイオフへ AI
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中