最新記事

医療

がんを発症の4年前に発見する血液検査

Blood Test for Cancer Detects Disease Years Before Symptoms Show

2020年7月22日(水)17時55分
カシミラ・ガンダー

血液中に「がんの素」を見つける Eraxion/iStock.

<胃がん、食道がん、大腸がん、肺がん、肝臓がんを、従来より4年早く発見する血液検査法が見つかった>

4年以内に特定のがんを発症するかどうかを予測できる血液検査が開発された、とする研究論文が公開された。

「PanSeer」と呼ばれるこの検査では、よく見られる5種類のがん(胃がん、食道がん、大腸がん、肺がん、肝臓がん)を、すでに診断された患者の88%で検出でき、精度は96%だった。

のちにがんと診断された無症候性患者でも95%でがんを検出した。ただし、この結果を裏づけるためにはさらなる研究が必要だと、『ネイチャー・コミュニケーションズ』誌で論文を発表した著者らは述べている。

PanSeerは、がんと関係のあるメチル化を見つけ出すことで機能する。炭化水素で構成される化合物である「メチル基」はDNAと結びつき、遺伝子のスイッチのオンオフを切り替えるシグナルとして機能するが、その際の異常を探すのだ。

研究には、2007年から2014年までに研究に参加した25歳から90歳までの12万3115人の血液試料が使われた。

研究チームはこれらの保存された試料から、がんの症状がなかった605人の試料を調べた。このうち191人は、採血から4年以内に、胃がん、食道がん、大腸がん、肺がん、肝臓がんのいずれかを発症した。

研究チームは、血液試料に含まれるDNA中の「CpGアイランド」と呼ばれる特定の配列における化学変化を調べることで、症状のない人におけるがんを見つけた。

<参考記事>アルコールとがんの関係が明らかに DNAを損傷、二度と戻らない状態に

まだ検知できないがんを見つける

研究チームは論文のなかで、特に強調したいこととして、PanSeerはがんになる人を予測するためのものではなく、すでにがんができているが、現在の検査方法ではその兆候をとらえられない患者を特定するためのものだと述べている。「多くのがんは、病気の進行が後期になるまで症状が現れない」と研究チームは述べている。

この検査の対象となる5種類のがんは、米国だけで毎年26万1530人の死者を出している。「早期発見により、死者数を大幅に減らせる可能性がある」と研究チームは述べている。

「最終的な目標は、毎年の健康診断の際に、こうした血液検査を定期的に実施することだ」と、論文共著者であるカリフォルニア大学サンディエゴ校バイオエンジニアリング学科長のクン・チャン教授は声明のなかで述べている。「とはいえ、さしあたりの目標は、家族歴、年齢、その他の既知のリスク因子に基づいて、リスクの高い人を検査することにある」

英ロンドン大学がん研究所の消化管がん生物学・ゲノミクス部門のチームリーダーで、今回の研究には参加していないニコラ・バレリ教授が本誌に語ったところによれば、今回の研究論文の著者らのほかにも多数の研究チームが、がん発症のリスクが高い患者を特定する方法を見つけようと試みているという。

「今回の研究による知見の正しさを確認し、どれくらいの頻度で検査を実施するべきか、いつ検査を開始するべきか、一般の人を対象に検査するべきか、それともこれらのがんリスクが高い特定集団を対象にするべきか、といった重要な疑問に答えるためには、さらなる研究が必要だ」とバレリは述べている。

【話題の記事】
中国は「第三次大戦を準備している」
銀河系には36のエイリアン文明が存在する?
カナダで「童貞テロ」を初訴追──過激化した非モテ男の「インセル」思想とは
セックスドールに中国男性は夢中

20200728issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月28日号(7月21日発売)は「コロナで変わる日本的経営」特集。永遠のテーマ「生産性の低さ」の原因は何か? 危機下で露呈した日本企業の成長を妨げる7大問題とは? 克服すべき課題と、その先にある復活への道筋を探る。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 2人負

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が

ビジネス

独VW、リストラ策巡り3回目の労使交渉 合意なけれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中