最新記事

宇宙

海王星の「ダイヤモンドの雨」を新たな手法で解析

2020年6月30日(火)16時51分
松岡由希子

ボイジャー2号が撮影した海王星 Credit: NASA / JPL / Voyager-ISS / Justin Cowart

<海王星や天王星では、超高熱・超高圧によって炭素が圧縮し「ダイヤモンドの雨」のように核に向かって奥深く沈んでいくと考えられてきたが、ドイツの研究チームはさらに研究をすすめた......>

太陽系において、海王星と天王星は、いまだ多くの謎に包まれている。これらの惑星は、水やメタン、アンモニアなど、氷のような物質の高温かつ高密度な流体が核を覆っていることから、「天王星型惑星(巨大氷惑星)」に区分される。

太陽系には、海王星や天王星のような天王星型惑星に対して、木星や土星のようにガス成分が多く、比較的密度が低い「木星型惑星」があるが、銀河系では天王星型惑星のほうが多く、アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、その数は木星型惑星の10倍だという。それゆえ、太陽系の天王星型惑星を解明することは、銀河系の惑星の研究においても不可欠だ。

海王星や天王星では、地下数千キロの超高熱・超高圧によって炭化水素化合物が分解され、炭素が圧縮してダイヤモンドになり、「ダイヤモンドの雨」のように核に向かって奥深く沈んでいくと考えられてきた。

超高温かつ超高圧の天王星型惑星の内部を再現

独ドレスデン-ロッセンドルフ研究所(HZDR)、米SLAC国立加速器研究所らの研究チームは、2017年8月に発表した研究論文で、SLAC国立加速器研究所のLCLS(線形加速器コヒーレント光源)のX線レーザーを用いて超高温かつ超高圧の天王星型惑星の内部を再現し、ダイヤモンドの雨が降る現象を初めて実証した。

この実証実験では、X線回折を用いてダイヤモンドの構造を示そうと試みたが、明らかにできたのは結晶構造を持つ物質のみであった。そこで、 研究チームはさらに研究をすすめ、2020年5月26日に「ネイチャー・コミュニケーションズ」で発表した研究論文で、X線のトムソン散乱(自由電子による散乱)により、これまで明らかにできなかった物質をも解明できることを示した。

この新たな実証実験では、深さ約1万キロの海王星の内部を再現するべく、メタンの代わりにポリエチレン(C8H8)を用い、高エネルギーなレーザーのパルスでポリエチレンの中で衝撃波を生成させ、150ギガパスカルの圧力と摂氏5000度の熱でポリエチレンを超高圧高温の物質(WDM)に変換させた。

研究チームは、X線がポリエチレンの電子からどのように散乱するかを測定することで、炭素からダイヤモンドへの変換を観測できたのみならず、その他のものが水素に分かれていくことも確認した。高圧によって炭化水素が炭素と水素に分かれ、放出された炭素原子がダイヤモンド構造に圧縮されたという。

惑星の進化史を研究する新たな手法

海王星や天王星では、これらのダイヤモンドは周囲の物質よりも重く、ダイヤモンドの雨となって核に向かって沈み込んでいく。この過程で周りの物質との摩擦が生じ、熱が生成されていると考えられる。

研究論文の責任著者でドレスデン-ロッセンドルフ研究所のドミニク・クラウス博士は「この手法は、再現しづらいプロセスの測定に役立つ」と評価し、「たとえば、木星や土星といった木星型惑星の内部にある水素やヘリウムが、極限環境でどのように混合したり、分かれたりするのかを知ることができるだろう。惑星や惑星系の進化史を研究する新たな手法だ」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

英インフレ期待、10月は4月以来の高水準=シティ・

ワールド

独総合PMI、10月53.8で2年半ぶり高水準 サ

ワールド

アングル:米FRBの誘導目標金利切り替え案、好意的

ビジネス

長期・超長期債中心に円債積み増し、ヘッジ外債横ばい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 9
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 10
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中