最新記事

教育

政府が教育にカネを出さない日本に未来はあるか

2020年6月17日(水)16時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

学生は普段からせっせとバイトをして学費をまかない、感染症に見舞われて稼ぎ先を失うと一気に生活困窮に陥る。なぜこのようなことになるか――公費負担割合が少ないから、上述のように国がカネを出さないからだ。それは、高等教育への公的支出額の対GDP比で見て取れる。

2016年の日本の値は0.42%となっている(上記のOECD資料)。学費無償のフィンランドは1.52%と、日本の3倍以上だ。この指標を、先ほど見た家高等教育費の家計負担割合と絡めてみると<図2>のようになる。

data200617-chart02.jpg

32カ国の配置をみると、大よそ右下がりの傾向がある、公的教育費支出の対GDP比が高い国ほど、家計負担割合が低い傾向にある。それが最も色濃いのは右下のノルウェーで、フィンランド、スウェーデンといった北欧国も近辺に位置している。

日本はその対極で、国がカネを出さず、家計の負担割合が重い国だ。左上は家計負担型、右下は公費負担型というようにくくれる。予想はしていたが、日本が前者の極地であることに失望せざるを得ない。

左下のルクセンブルクは傾向から大きく外れているが、この国の高等教育進学率は低いので、少ない国庫支出でも費用の大半を「公」でまかなえるのだろう。右下の北欧諸国は、高等教育進学率が高い。ノルウェーは82.0%で、日本の63.6%よりもずっと高い(2018年、GLOBAL NOTEサイト)。量的に多い学生の高等教育費用のほぼ全額を公費でまかなえるのは、国がカネを出しているからだ。

北欧はもの凄く高い税金を取っていることもあるが、そこには立ち入らない。ここで注目すべきは、日本は国がカネを出さず、家計の負担割合が重い国の極地であることだ。

学生の生活困窮は、そもそも構造的な要因による。コロナという突発事情だけを強調すべきではない。声を大にして、負担緩和を国に求める余地は大ありだ。ただ政府も手をこまねいているわけではなく、今年度より高等教育無償化政策が始まり、住民税非課税世帯の大学学費は無償になり、年収380万円未満の世帯の学費は減額されることになった。

<図2>は2016年データによるグラフだが、直近のデータでは日本も右下にシフトしていると思われる。どれだけ公費負担型に近づけるかは、われわれがどれほど声を上げられるかにかかっている。まずは、コロナで苦しむ学生の救済に本腰を入れることからだ。

<資料:OECD「Education at a Glance 2019」
    GLOBAL NOTE「世界の大学進学率」

【話題の記事】
フリーランスの収入で「普通」の生活ができる人はどれだけいるのか
日本の未婚男性は長生きしないのに、女性は既婚より未婚の方が長生きする不思議
自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ
日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいっている不思議

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米政権が刑事訴追警告とパウエル氏、利下げ圧力強化の

ワールド

米、重要鉱物の中国依存巡り迅速な対策要請へ G7な

ワールド

イラン抗議デモで死者500人超、トランプ氏「強力な

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ石油収入の差し押さえ阻止へ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画をネット民冷笑...「本当に痛々しい」
  • 4
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    飛行機内で「マナー最悪」の乗客を撮影...SNS投稿が…
  • 10
    決死の嘘が救ったクリムトの肖像画 ──ナチスの迫害を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中