最新記事

エネルギー

影から電気を生成する装置が開発される

2020年6月9日(火)19時30分
松岡由希子

光と影の輝度差を活用した新たな発電手法が開発される Royal Society of Chemistry

<影がもたらす輝度差を間接的な動力源として活用する新たな発電手法が開発された......>

一般的な太陽電池は、周囲の光を動力源に用いて発電するため、影があると発電効率が低下する。しかしこのほど、影がもたらす輝度差を間接的な動力源として活用する新たな発電手法が開発された。

シンガポール国立大学(NUS)の研究チームは、光と影との輝度差によって、明るい部分と影の部分との間に電位差を促し、これによって電流を生じさせる「影効果発電装置(SEG)」の開発に成功した。一連の研究成果は、2020年4月15日にイギリス王立化学会の学術雑誌「エナジー&エンバイロメンタルサイエンス」で公開されている。

明るい部分と影の部分が半々になるとき、発電に最適

「影効果発電装置」では、シリコン基板に超薄の金膜がコーディングされている。光がシリコン基板に当たると、一般的な太陽電池と同様に、光子が電子に突き当たり、電子が動き回ってエネルギーが生成される。さらに、光が当たって明るい部分と影の部分とに差があるとき、この活発な電子がシリコン基板から金膜に飛び移ると、電圧が上がる仕組みだ。「影効果発電装置」の発電効率は、一般的な太陽電池の2倍にのぼる。

研究チームの実験によると、「影効果発電装置」の全体が光に当たっている、もしくは影になっている場合、まったく発電しないか、発電してもその発電量はごくわずかであった。一方で、「影効果発電装置」の一部が光に当たると、大きな電気出力が検出された。明るい部分と影の部分が半々になるとき、発電に最適であることも明らかとなっている。

物体の移動をモニタリングする電源内蔵型のセンサー

研究チームは、屋内照明とこれによる影との輝度差で「影効果発電装置」が発電したエネルギーを電子時計に用いることにも成功した。また、物体の移動をモニタリングする電源内蔵型のセンサーとして「影効果発電装置」を活用できることもわかった。物体が「影効果発電装置」を通過すると、断続的に影が投じられ、これによって、物体の存在や移動を記録できるという。

研究チームでは、今後、金以外の素材でも同様に発電できるかどうか、実験を行う。また、「影効果発電装置」のセンサーやウェアラブル端末などへの応用可能性についても研究をすすめる方針だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、AI支出増でメタ・マイクロソフ

ビジネス

米アップル、7─9月期売上高と1株利益が予想上回る

ビジネス

アマゾン、売上高見通し予想上回る クラウド好調で株

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで154円台に下落、日米中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面に ロシア軍が8倍の主力部隊を投入
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 10
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中