最新記事

中英関係

若者は資格なし? 英国民になれる香港人の条件とは

Many Hong Kongers On Course to Become British

2020年6月8日(月)17時35分
ユアンイー・チュー(オックスフォード大学政治学講師)

現在の国籍制度は1981年に制定されたが、この国籍は6種類に分かれている。そして無条件で英国本土への居住を認められるのは「生粋の市民」のみ。その他の英国民にはパスポートと短期の滞在権が付与されるだけだから、事実上の「二級市民」だ。

1997年に中国に返還される以前の香港は英国の植民地で、住民の大半は英国王の臣民だった。1960年代に入国規制が始まるまでに、多くの香港人が職を求めて英国に渡っている。しかし1981年の国籍法により、中国系香港人の大半は「海外領の市民」ということになり、英国市民の権利のほとんどを失った。

一方で、「人種的にイギリス人」である香港人は、祖父母の一方が英国本土生まれであれば英国市民権を与えられた。その他の海外領にも香港と同様の措置が適用されたが、例外は南米アルゼンチン沖に浮かぶフォークランド諸島だ。1982年の紛争で軍隊を送って以来、英政府は全島民に完全な市民権を付与している。

だが、この特例は香港には適用されなかった。いろいろ議論はあったが、従来の「海外領の市民」に替えてBNOという資格を付与するにとどまった。例外として5万世帯(その大半は返還前の香港政庁職員の家族)にも英国市民権を付与したが、どうせ彼らが香港を離れることはないと見越してのことだった(ちなみに今の香港行政長官・林鄭月娥〔キャリー・ラム〕も、このときに英国市民権を与えられている)。

一方で中国政府は、当然ながら返還後の香港からの「頭脳流出」を恐れた。そして英政府の付与したBNOパスポートを、中国本土では認めないと宣言した。つまりBNOパスポートが有効なのは中国国外だけで、ひとたび中国本土に入れば香港人も一般の「中国人」と同じということだ。英政府も中国側との共同声明で、BNOには英国での居住権がないことを確認した。だから香港人は、BNOでも中国人として生きるしかない。

BNOにもなれない若者

当時の英政府は、香港のBNOが大挙して英国本土にやって来るとは想定していなかった。実際、香港返還直前にはイギリス以外の国籍を取得する香港人も多かった。しかし、共同声明で約束された「一国二制度」がほごにされようとしている今、当初の想定は大きく揺らいでいる。香港を逃げ出したい人は確実に増えている。だからこそジョンソンも、彼らの受け入れに前向きな姿勢を見せている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは147円半ばへ下落、日銀現状維持に

ワールド

高市氏が総裁選公約、対日投資を厳格化 外国人への対

ワールド

カナダとメキシコ、貿易協定強化で結束強化の考え

ワールド

米、ワシントンの犯罪取り締まりで逮捕者らの給付金不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中