最新記事

分散コンピューティング

世界中のコンピュータを集めて、新型コロナウイルスの治療法開発に役立てる

2020年3月23日(月)20時15分
松岡由希子

コンピュータシミュレーションで新型コロナウイルスの治療法の開発に役立てる...... Maksim Tkachenko-iStock

<分散コンピューティングプロジェクトFolding@home は、新型コロナウイルスの解析に着手し、余剰となっているCPUやGPUの処理能力の提供を世界中に広く呼びかけている......>

米スタンフォード大学を中心とする分散コンピューティングプロジェクトFolding@home(フォールディング・アット・ホーム)は、2020年3月、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の解析に着手し、余剰となっているCPUやGPUの処理能力の提供を世界中に広く呼びかけている。

世界中のコンピュータの処理能力を結集して、様々な疾病の治療に寄与

Folding@homeは、2000年10月の創設以来、分散コンピューティング技術により、オンラインで接続された世界中のコンピュータの処理能力を結集して、タンパク質の折り畳み構造を解析し、アルツハイマー病やパーキンソン病、乳がん、腎臓がんなど、様々な疾病の治療に寄与してきた。

タンパク質の折り畳みとは、タンパク質が細胞内で特定の立体構造に折り畳まれる生物学的プロセスであり、これによって、そのタンパク質がどのような機能を実行するかが定められる。Folding@homeでは、2020年2月、エボラウイルスV35タンパク質についてシミュレーションを実施し、治療に役立つ領域を特定することにも成功している。

.

計算資源が世界各地から寄せられている

Folding@homeでは、新型コロナウイルスの治療へのアプローチとして、「新型コロナウイルスが、ヒトの宿主細胞にウイルス侵入するために必要となる『ACE2受容体』とどのように相互作用しているか」に着目。新たな抗体医薬によって両者の相互作用を阻害することで感染を防止できるのではないかと考えている。

このような仮説のもと、エボラウイルスでの研究実績をベースに、コンピュータシミュレーションによって新型コロナウイルスのタンパク質の可動領域を解明し、新たな治療法の開発に役立てる方針だ。

このプロジェクトの概要やファイルはすべてオンラインプラットフォーム「ギットハブ(GitHub)」で公開されている。


新型コロナウイルスの感染拡大が深刻となるなか、Folding@homeがシミュレーションを実行するための計算資源として、CPUやGPUの処理能力が世界各地から寄せられている。ギットハブのCEO(最高経営責任者)ナット・フリードマン氏は、3月11日、公式ツイッターで、ギットハブの余剰計算能力を寄付すると発表。

日本のソフトウェア開発企業サイボウズやインターネットサービスプロバイダ(ISP)さくらインターネットも、このプロジェクトに参加することを表明している。

専用ソフトウェアをインストールし、誰でも参加できる

Folding@homeには、専用ソフトウェアをPCにインストールし、これを起動しておくことで、誰でも参加できる。また、セントルイス・ワシントン大学を通じ、オンラインで寄付も募っている。

Folding@homeの共同ディレクターを務めるセントルイス・ワシントン大学のグレゴリー・ボーマン准教授は、「シミュレーションは大規模なもので、わずかな処理能力でもプロジェクトに役立つ」と協力を呼びかけている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中