新型コロナウイルスによる経済活動制限が、大気汚染を改善し多くの生命を救った、との推定
イタリア北部で二酸化窒素の排出量が大幅に減少した...... ESA-YouTube
<新型コロナウイルスによる経済活動の制限によって、大気汚染が大きく改善していることがわかった。このため多くの生命が救われた、との研究が発表された......>
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が世界各地に広がり、一般市民の外出禁止や工場の操業停止などが相次いでいる。このような人間の経済的・社会的活動の制限に伴って、大気汚染が大きく改善している面もある。
中国、イタリアで二酸化窒素の排出が大幅に減少
欧州宇宙機関(ESA)の地球観測衛星「センチネル-5P」が観測機器「トロポミ」を通じて収集したデータを比較したところ、中国では、20年2月10日から25日までの二酸化窒素(NO2)の排出量が1月20日に比べて大幅に減少していることがわかった。
ESA
同様の現象はイタリアでも確認されている。1月1日から3月11日までに「センチネル-5P」で観測されたデータの推移をみると、特にイタリア北部のポー平原で二酸化窒素の排出量が減少している。「センチネル-5P」のミッションマネージャーを務めるクラウス・ツェナー氏は「イタリアが事実上封鎖され、交通や産業活動が減ったのと同時に、二酸化窒素の排出量が減少している」とコメントしている。
米スタンフォード大学のマーシャル・バーク准教授は、3月8日、「中国での大気汚染の改善によって、大気汚染による死亡者数が減少した可能性がある」とのシミュレーション結果を学際研究グループ「Gフィード」の公式ブログに投稿した。
バーク准教授は、北京・上海・広州・成都の中国4都市を対象に、在中国米国大使館・領事館が測定したPM2.5濃度のデータを用いて、2020年1月から2月までの値と2016年から2019年までの値とを同期比で分析した。その結果、2020年1月から2月までの間は、PM2.5が1立方メートルあたり15マイクログラムから18マイクログラム減少していた。
中国の大気汚染の改善で、3000人〜8万人弱の生命が救われたと推定
また、バーク准教授は、香港科技大学らの研究チームが「2008年北京オリンピックに伴う大気汚染の改善によって死亡率にどのような影響があったか」を算出した2016年5月の研究成果におけるシミュレーションモデルを用いて、「中国でPM2.5が1立方メートルあたり10マイクログラム減った」という条件のもと、その効果を算出。その結果、5歳未満の子ども1400名から4000名と70歳以上の高齢者5万1700名から7万3000名の生命が救われたと推定されている。
大気汚染は、私たちに健康被害をもたらす社会的課題のひとつだ。汚染された大気にさらされることで、脳卒中や心臓病、肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸器感染症などの疾病を引き起こすおそれがある。世界保健機構(WHO)によると、2016年には大気汚染によって世界で420万人が死亡している。