最新記事

社会格差

虫歯がある子どもの比率に地域差があるのは、治療費のせいではない

2020年3月4日(水)15時45分
舞田敏彦(教育社会学者)

この地域差は偶然ではなく、各区の社会経済特性と関連している。貧困世帯の比率の地図をつくり、上記の虫歯地図と左右に並べてみると、模様がかなり重なる。そこで、貧困と虫歯の相関関係を散布図で表してみた。横軸に核家族世帯の年収中央値、縦軸に小学生の虫歯児率<図1>をとった座標上に、23の区のドットを配置すると<図2>のようになる。

data200304-chart02.jpg

年収が低い区ほど、虫歯の子どもの比率が高い傾向にある。相関係数は-0.8054と非常に高い。貧困と虫歯の相関のマクロな表れと見ていい。

経済的余裕のない家庭では、口当たりのいい(安価な)菓子類で子どもの腹を満たすことが多いかもしれない。虫歯予防に対する保護者の意識、歯磨きのしつけ等にも階層差はあるだろう。法定されている学校の保健指導等で、保護者への啓発を行うことが求められる。

一昔前なら、歯医者の診療費を負担できない事情もあっただろうが、今は都内23区の子どもの医療費は無償なのでそれは考えにくい。ただ、働き詰めのシングルの親が子どもを歯医者に連れていく時間を取れない、ということはあり得る。忙しい親に代わって、年少の子どもを歯医者に連れていく地域ボランティアを募れないものだろうか。今は歯医者も過剰の時代だが、土日や夜間に診療する歯科医院がもっと増えていい。

近年、子どもの「口腔崩壊」が問題になっているが、歯が悪いと食べ物をきちんと咀嚼して栄養摂取ができず、体全体の健康(発育)を害してしまう。このような悪循環は、早い段階で断ち切っておかなければならない。そのために必要なのは、医療費無償といった経済的支援だけではない。

<資料:東京都教育委員会『東京都の学校保健統計』(2018年度)
    総務省『住宅土地統計』(2018年)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権の対中AI半導体輸出規制緩和を禁止、超

ビジネス

具体的な金融政策運営「日銀にお任せしている」=片山

ビジネス

IMF専務理事、来週訪中 年次評価に関して協議

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持候補優勢で対立
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中