最新記事

動物

猫アレルギーと毒を持つ唯一の霊長類スローロリスとの関連が明らかに

2020年2月17日(月)15時30分
松岡由希子

ネコもスローロリスと同様だった......? praisaeng-iStock

<ヒトがスローロリスに噛み付かれると、アナフィラキシーショックが起こることもあるが、スローロリスの毒液のメカニズムとネコアレルギーとのつながりを示唆する研究成果が明らかとなった......>

南アジアから東南アジアの常緑樹林に生息するスローロリスは、毒液を分泌する既知で唯一の霊長類だ。肘の内側にある上腕腺で臭気の強い毒液を分泌し、これを舐めて口の中で唾液と混ぜ、外敵に噛みつき、害を与える。

ヒトがスローロリスに噛み付かれると、激痛、呼吸困難や血尿といった症状のほか、アナフィラキシーショックが起こることもある。このほど、このようなスローロリスの毒液のメカニズムとネコアレルギーとのつながりを示唆する研究成果が明らかとなった。

ネコは毛づくろいしながら、体をコーティングしている

豪クイーンズランド大学の研究チームは、インドネシア・ジャワ島西部のチカナンガ野生動物保護センターに生息するスローロリスの上腕腺から分泌されるタンパク質のDNAの塩基配列を解析し、2020年1月28日、学術雑誌「トクシンズ」でその研究成果を発表した。

これによると、スローロリスの上腕腺から分泌されるタンパク質のDNAの塩基配列は、ネコのフケに存在するアレルギー誘発性タンパク質と一致し、分子構造においても顕著な類似性が認められた。

ネコはこのアレルギー誘発性タンパク質を分泌し、舌で毛づくろいをしながら、自らの体をこれでコーティングする。ネコアレルギーのある人は、このタンパク質に反応しているというわけだ。欧州では成人の26%がネコアレルギーの疑いで受診している。

ネコもアレルギー誘発性タンパク質で外敵から防御している?

研究論文の責任著者であるクイーンズランド大学のブライアン・フライ准教授は、「上腕腺から分泌されるタンパク質がスローロリスの『防御用兵器』であるとすれば、ネコもスローロリスと同様に、このアレルギー誘発性タンパク質を用いて自らを外敵から防御していると考えられる」とし、「いわゆる収斂進化によって、この機能がスローロリスとネコにおいて別個に進化したのかもしれない」と考察している。

スローロリスの毒液のメカニズムとネコアレルギーとのつながりについてはさらなる解明が必要であるものの、この研究結果は、アリ刺傷や蜂毒アレルギーといった他のアレルギーの研究などにも道をひらくものとして評価されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏がMRI検査、理由明かさず 「結果は完璧

ワールド

米中外相が電話会談、30日の首脳会談に向け地ならし

ワールド

アルゼンチン大統領、改革支持訴え 中間選挙与党勝利

ワールド

メキシコ、米との交渉期限「数週間延長」 懸案解決に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中