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アメリカ経済通貨安国に「制裁」を課すトランプの新関税ルールは矛盾がいっぱい
中国は安い人民元を利用して輸出大国に成長したが NIPASTOCK/ISTOCKPHOTO
<新ルールの下では、米商務省が通貨安と判断したあらゆる国からの輸入品が課税対象になるかもしれない。だがそもそも、ドル高を招いているのはトランプなのでは......?>
トランプ米大統領は関税を貿易戦争の武器に使ってきたが、同時に長い間、外国が人為的に自国通貨を安く維持することでアメリカを出し抜いていると信じてきた。そして今、トランプはこの2つを組み合わせた危険な新ルールを打ち出した。
米商務省が2月3日に発表した新ルールは、通貨安を誘導して輸出品の価格を下げ、アメリカ製品との競争で優位に立っていると見なした国に関税を課すというもの。アメリカが課す「補助金相殺関税」は通常、市場価格に比べ不当に安く売られていると証明された特定の輸入品が対象となる。
それが今後は、商務省が通貨安と判断したあらゆる国からの輸入品が課税対象になる可能性がある。だが、この新ルールはトランプ政権自身の通商政策が生んだ「負の副産物」の埋め合わせにすぎない。
7日発表の1月の雇用統計が市場予想を上回ったことからも分かるように、アメリカ経済は依然好調だが、貿易戦争の影響が大きい農業や製造業などでは雇用が減り、倒産が増えている。
1月の雇用統計は全体の数字はいいが、製造業では1万2000人分の仕事が消えた。トランプの保護主義的政策が重工業、製造業の多いラストベルト(赤さび地帯)の雇用拡大につながっていない実態を浮き彫りにする数字だ。
アメリカは数十年前から、通貨安を武器に輸出を伸ばす国々を批判してきた。1980年代には日本が、その20年後には中国が安い自国通貨をテコに輸出大国になった。どちらのケースでも、アメリカの製造業の一部はドル高の犠牲になったが、アメリカの消費者は逆に恩恵を受けた。
米中貿易交渉に暗雲が
通貨安を理由に関税をかけるアイデアは以前からあったが、これまでは2つの理由から否定的な見方が大勢を占めていた。まず、ある通貨が不当に安いかどうかを判断するのが困難なこと。多くの通貨は外為市場で自由に取引され、さまざまな理由によって変動する。
そして「補助金相殺関税」は法律上、特定の外国政府の補助金によって人為的に安く抑えられている輸入品に対する関税であり、その国の通貨が安いだけでは適用できない。ドルが中国の人民元やユーロ、円に対して割高だとすれば、原因の一部はトランプの通商政策、特に関税だ。
トランプが外国製の鉄鋼やアルミ、中国製品の大半に課した関税は、アメリカの消費者にとって値上げ要因になる。国内に失業者があふれ、操業停止中の工場がたくさんあれば、関税が国内生産の増加につながる可能性はある。
だが現在、アメリカの失業率は歴史的な低水準にある。「完全雇用状態の経済において関税が輸入品の価格を押し上げる場合、国産の代替品に生産拡大の余地がなければ、何らかの形で輸入品の価格を元に戻そうとする力が働く。その結果がドル高だ」と、関税の影響に詳しいカリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授(経済学)は指摘する。
この動きが特に顕著になったのは、トランプ政権が本格的に関税を武器に使いだした2018年初めからだ。新ルールはアメリカの主要貿易相手国との軋轢をさらに高める可能性がある。
中国共産党系のタブロイド紙・環球時報の英語版は、このルールが中国に適用された場合、ようやく実現した米中交渉の「第1段階合意」もその後の貿易交渉も「重大なリスク」にさらされると警告した。
<2020年2月18日号掲載>
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