最新記事

生物

「ホライモリは悲しんだ」......7年間、同じ場所で動かない

2020年2月21日(金)18時10分
松岡由希子

井伏鱒二「山椒魚」のモデルではないが...... IvanaOK -iStock

<光のない洞穴に適応して目が皮膚に埋もれているウーパールーパーの一種のホライモリが、7年間にわたって観察された......>

ウーパールーパーの一種である両生類のホライモリは、東欧ディナル・アルプス山脈の洞窟で生息する、既知で最大の洞穴性の脊椎動物だ。

ほとんど光のない洞穴に適応し、視覚は発達せずに目が皮膚に埋もれている一方、聴覚や嗅覚、電気感覚、磁気感覚に優れている。また、洞穴は食料が乏しいため、代謝が遅く、代謝の遅さゆえ、寿命が極めて長く、100年に達するものもいる。

洞穴には外敵が存在せず、身を守るために逃げる必要がない

ハンガリーのエトヴェシェ・ロラーンド大学の研究チームは、2010年から2018年にかけて、ボスニア・ヘルツェゴビナ南部トレビニェの洞窟で生息するホライモリの成体26匹に個体を識別できるタグをつけ、行動範囲を観察した。一連の研究成果は、学術雑誌「ジャーナル・オブ・ズーオロジー」に掲載されている。

これによると、7年にわたる観察期間において、ホライモリの移動距離は概ね10メートル未満であり、20メートル以上の移動が確認されたのはわずか3回にとどまった。なかには、最初の発見から2569日後も同じ場所にとどまるホライモリもいたという。

洞穴には外敵がほとんど存在せず、ホライモリは外敵から身を守るために逃げる必要がない。研究論文の筆頭著者でエトヴェシェ・ロラーンド大学の動物学者ゲルゲイ・バラージュ氏は、ホライモリの生態について「彼らはブラブラしているだけで、ほとんど何もしない」とオンラインメディア「ニューサイエンティスト」で語っている。

数年間、何も食べなくても生存できる

このようなホライモリの"怠惰"な生活は、極めて低い代謝によるものとも考えられている。ホライモリは、洞窟でわずかに生息する巻貝や甲殻類を捕食するが、食料が少なければ、代謝と活動レベルを下げ、数年間、何も食べなくても生存できる。また、その生殖周期が12年であるのも特徴だ。

研究チームは、「ホライモリは、食料不足な洞窟で捕食し、12年ごとに繁殖し、100年もの間生き続けるために、移動を最小限にとどめ、エネルギー消費を抑えているのではないか」と考察している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

26年度賃上げスタンス、大半の支店で前年度並みとの

ワールド

「尹氏は北朝鮮の武力侵攻誘発を試みた」、韓国特別検

ワールド

ガザで避難地域に洪水の危険、防災資材搬入認められず

ビジネス

中国11月鉱工業生産・小売売上高、1年超ぶり低い伸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中