最新記事

中東

イラン、「アメリカに死を」が「独裁者に死を」へ 旅客機撃墜に憤る国民

2020年1月13日(月)11時35分

支持層が抗議活動に

「(撃墜の)悲劇が忘れられることはないし、国外からの制裁だけでなく、国内から圧力を受ける国民がこの悲劇を克服するのは簡単ではない」と、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のサナム・バキル上席研究員は言う。「今回の件は統治に大きな欠陥があるということを明らかにした」

8年間にわたったイラクとの戦争など、イランのイスラム政権は過去にもっと深刻な状況を乗り越えてきた。しかし、ガソリンの値上げを機に発生した11月のデモで真っ先に通りに出てきたのは、これまで政府の気前良い援助を享受してきた貧困層、下流層という、盤石な政権支持者たちだった。

抗議の声はすぐに政治的なものに変わり、彼らは指導部の退陣を要求。当局が厳しく取り締まった。

「再び国民を殺した」

事故だったかどうかに関わらず、軍部が旅客機を撃墜したことが明らかになったことは、イラン政権にとって新たな打撃だ。乗客の多くはイラン国籍も保有していた。

ソーシャルメディアはイランの人びとからの怒りの声であふれた。イラン政府が遺族をいたわるよりも、墜落の責任を否定することに時間を割いていたという内容のコメントが多くみられた。

「国民には衝撃だった。政権は再びぞんざいに国民を殺した」と、米外交問題評議会のシニアフェロー、レイ・タケイ氏は言う。「ソレイマニ司令官の殺害が国民を団結させたとする、もともと偽りだった物語が壊れた」

2月21日は、議会選挙と並行して専門家会議のメンバーも選ぶ。イスラム法学者で構成されるこの機関は、80歳になるハメイニ師の後継者をいずれ選出する任を負う。

ハメイニ師に任期はなく、イラン・イスラム共和国を樹立したホメオニ師が1989年に死去して以降、最高指導者の地位にいる。

Parisa Hafezi Tuqa Khalid

[ドバイ 11日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200114issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月14日号(1月7日発売)は「台湾のこれから」特集。1月11日の総統選で蔡英文が再選すれば、中国はさらなる強硬姿勢に? 「香港化」する台湾、習近平の次なるシナリオ、日本が備えるべき難民クライシスなど、深層をレポートする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、インドをWTO提訴 太陽光備品やIT製品巡り

ワールド

ウクライナ軍、東部シベルスクから撤退 要衝掌握に向

ワールド

グレタさん、ロンドンで一時拘束 親パレスチナ支援デ

ビジネス

ワーナー買収戦、パラマウントの新提案は不十分と主要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中