最新記事

都市

「自動車が乗り入れない都市」を模索する世界の潮流、その成果は

2020年1月15日(水)17時00分
松丸さとみ

「カーフリー」をめぐる議論

とはいえ、自動車がまったくない「カーフリー」の実現は、簡単にはいかないようだ。反対意見もないわけではなく、例えば英国ドライバー協会のヒュー・ブレーデン氏はBBCに対し、渋滞が起こるのは「都市計画がお粗末だから」であり、自動車の乗り入れを規制するのではなく、もっと駐車場を増やすべきだと主張した。

また、マンチェスター大学で都市計画を研究するランスフォード・アチャンポン博士は、「自動車を人から取り上げるのであれば、代わりになるものを提供しなければならない」と指摘する。

環境意識の高いオスロでさえも、自動車の乗り入れ制限には、市民の間で多くの議論がなされたという。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、制限にもっとも反対したのは、地元で商業を営む事業者たちだった。車が減るということは、買い物客が減ることにつながると懸念したのだ。

そのため市側では、完全な乗り入れ禁止ではなく、「出来る限り減らす」という方向で対応した。つまり、自動車の乗り入れを全面的に禁止とするのは一部の道路とし、住民の車や事業で必要な車両は禁止の対象から除外した。また、市民の便宜を図るため、トラムや地下鉄の本数を増やし、運賃を下げた。このような対策のおかげか、オスロでは、蓋を開けてみたら新たに歩行者用となった通りでは、乗り入れ制限前と比べ、買い物客はむしろ増加したという。

一般的に「カーフリー」という概念は、都心で暮らし働いている、車の所有にも関心が高くない若い世代のものではないかという意見もあるようだ。しかしカーフリーへの取り組みをまとめたパンフレットの中でオスロ市は、車を減らし安全な街づくりをすることで、高齢者にもやさしい都市になると説明している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中