最新記事

弾劾裁判

米上院のトランプ弾劾裁判は数以上に汚いゲームになる

No One in the Senate Is Going to Follow the Rules on Impeachment. Try This Instead

2019年12月19日(木)16時30分
ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)

合衆国憲法の起草者たちの多くは法律家だったが、合衆国憲法は法律文書ではない。そこに掲げられた政府のシステムを理解するには、法律の専門知識はいらない。簡単な話だ。政府の3つの独立した部門が互いを監視する役目を担う(三権分立)。議会は弾劾の権限を持ち、大統領の権力乱用を阻止する。上院規則の宣誓の文言や、トランプがウクライナに「軍事支援の見返り」を求めたかどうかといった議論に興味が持てないアメリカ人も、上院が弾劾裁判をホワイトハウスに丸投げすれば、憲法が定める民主主義の枠組みが根底から崩れることは分かるはずだ。この枠組みが壊れたら、あらゆるルールが単なるお飾りになる。

だからこそ、全米は今、ジョン・ロバーツ最高裁長官の動きに注目している。合衆国憲法は、大統領の弾劾裁判では最高裁長官が裁判長を務める、と定めている。しかしロバーツがその務めをきちんと果たすか、それとも、まともな審理をせずにランプを無罪放免にするマコネルの荒業を許すかは誰にも分からない。ロバーツにすれば、あらゆる点でマコネルの好きにさせるほうが得策だ。そうすれば、これから始まる醜悪な泥仕合から自身と最高裁を守れる。

クリントンの弾劾裁判を指揮したウィリアム・レンキスト前最高裁長官(ロバーツはかつて彼の下で法務書記をしていた)が、弾劾裁判で自分が果たした役割について「特に何もせず、とてもうまくやった」と言ったエピソードは有名だ。ロバーツもそのやり方に倣う可能性が高いだろう。

だが一方で、連邦最高裁長官には弾劾裁判において、単なる「お飾り」以上の機能を果たすことが憲法で義務づけられている。合衆国憲法の起草者たちが上院の弾劾プロセスを指揮する人物に最高裁長官を充てたのは、弾劾プロセスが党派政治に左右されないようにするためだ。

今後数週間、ロバーツはどうやって最高裁長官として正しいことをしつつ、弾劾裁判で決定的な役割を果たして共和党に逆らうことを避けるつもりなのか。そして彼が対処すべき重要な問題は、上院の弾劾裁判だけではない。最高裁は12月13日、財務・税記録の召喚状に関する訴訟で、自らの財務・納税記録の開示阻止を求めるトランプの上告を受理して審理することに合意している。

国民に果たせる大きな役割

自分が対外的な「顔」でもあり仕える身でもある最高裁を守るために、ロバーツは今後、歯車が一つでも狂えば崩れてしまう、憲法を巡る複雑なゲームへの対応を余儀なくされる。既に注目の訴訟を幾つも抱え、いずれも会期末の6月までに判断を下さなければならないし、弾劾裁判はこの冬、間違いなくメディアの注目を集めることになるだろう。さらに「大統領は法の上に立つ」というトランプの馬鹿げた主張を精査するための審理は、財務・税記録の問題で終わりではない。

ロバーツに対しては、自分の保守的な政治志向よりも社会のニーズを優先させてほしいという意見が多く寄せられるだろう。ロバーツは、自分が「(国民から)どう見えるか」に無関心ではいられない。彼は今後、上院での弾劾裁判を公平に監視せよという政治的圧力と同じくらい、国民からの圧力にもさらされることになる。つまりアメリカ国民にはまだ、果たすべき大きな役割があるということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中