酸素のない海域「デッドゾーン」が急速に拡大しており、甚大な影響を及ぼす
酸素が少ない水域が増えている...... Lucy Nicholson-EUTERS
<「デッドゾーン」と呼ばれる低酸素海域が急速に拡大しており、海洋生物や漁業などにもたらす影響は、私たちの予測を超えている可能性があるとの研究が発表された......>
二酸化炭素濃度の上昇や海面上昇に伴って、「デッドゾーン」と呼ばれる、溶存酸素濃度が極めて低い「酸素極小層(OMZ)」が世界で拡大している。
低酸素海域が急速に増え、海洋生物や漁業に甚大な影響をもたらす
2015年1月に米カリフォルニア大学デービス校が発表した研究論文で「北米の太平洋岸で『デッドゾーン』が広がっている」ことが示されているほか、国際自然保護連合(IUCN)も、19年12月にスペイン・マドリードで開催された第25回気候変動枠組条約締約国会議(COP25)で「1960年代には45カ所にとどまっていた低酸素海域が急速に増え、この50年で700カ所にまで広がっている」との新たな報告書を発表した。
「デッドゾーン」が海洋生物や漁業などにもたらす影響は、私たちの予測を超えている可能性がある。英プリマス大学のサビン・レンゲル博士らの研究チームは、世界最大の「デッドゾーン」であるアラビア海の底から採取した堆積物の有機炭素の安定同位体を測定した。2019年12月6日、学術雑誌「グローバル・バイオジオケミカル・サイクルズ」で「『デッドゾーン』の予測に用いるコンピュータモデルでは、深海で生息する嫌気性生物による炭酸暗固定も考慮すべきだ」との研究論文を発表した。
「デッドゾーン」は予測よりもさらに広がるおそれがある
「デッドゾーン」では、主に植物プランクトンが担う一次生産によって有機物質の分解が盛んとなり、酸素需要量が増えるために水中の酸素が不足して、多くの海洋生物が生存できなくなる一方、生育や増殖に酸素を必要としない嫌気性生物は深海に生息し、光エネルギーや無機物の酸化エネルギーを要さずに二酸化炭素を炭素化合物として貯留する「炭酸暗固定」を行っている。
研究チームの測定結果によると、海底の堆積物の有機炭素には、海面から沈んだ有機物質だけでなく、嫌気性生物の炭酸暗固定によるものも含まれており、その割合は全体の17%程度を占めていた。
「デッドゾーン」を予測する既存のコンピュータモデルでは、嫌気性生物の炭酸暗固定が考慮されていない。研究チームは、測定結果をふまえて「実際の『デッドゾーン』の酸素需要量は予測よりも高く、より深刻な酸素不足に陥り、『デッドゾーン』が予測よりも広がるおそれがある」と警鐘を鳴らし、「デッドゾーン」の予測精度を向上させるべく、コンピュータモデルの見直しの必要性を訴えている。