最新記事

自然環境

酸素のない海域「デッドゾーン」が急速に拡大しており、甚大な影響を及ぼす

2019年12月17日(火)18時35分
松岡由希子

酸素が少ない水域が増えている...... Lucy Nicholson-EUTERS

<「デッドゾーン」と呼ばれる低酸素海域が急速に拡大しており、海洋生物や漁業などにもたらす影響は、私たちの予測を超えている可能性があるとの研究が発表された......>

二酸化炭素濃度の上昇や海面上昇に伴って、「デッドゾーン」と呼ばれる、溶存酸素濃度が極めて低い「酸素極小層(OMZ)」が世界で拡大している。

低酸素海域が急速に増え、海洋生物や漁業に甚大な影響をもたらす

2015年1月に米カリフォルニア大学デービス校が発表した研究論文で「北米の太平洋岸で『デッドゾーン』が広がっている」ことが示されているほか、国際自然保護連合(IUCN)も、19年12月にスペイン・マドリードで開催された第25回気候変動枠組条約締約国会議(COP25)で「1960年代には45カ所にとどまっていた低酸素海域が急速に増え、この50年で700カ所にまで広がっている」との新たな報告書を発表した。

「デッドゾーン」が海洋生物や漁業などにもたらす影響は、私たちの予測を超えている可能性がある。英プリマス大学のサビン・レンゲル博士らの研究チームは、世界最大の「デッドゾーン」であるアラビア海の底から採取した堆積物の有機炭素の安定同位体を測定した。2019年12月6日、学術雑誌「グローバル・バイオジオケミカル・サイクルズ」で「『デッドゾーン』の予測に用いるコンピュータモデルでは、深海で生息する嫌気性生物による炭酸暗固定も考慮すべきだ」との研究論文を発表した。

1920px-Aquatic_Dead_Zones.jpg

2008年に調査されたデッドゾーン。赤い丸は、貧酸素水塊水域(デッドゾーン)の場所と規模を表している。NASA Earth Observatory- wikipedia

「デッドゾーン」は予測よりもさらに広がるおそれがある

「デッドゾーン」では、主に植物プランクトンが担う一次生産によって有機物質の分解が盛んとなり、酸素需要量が増えるために水中の酸素が不足して、多くの海洋生物が生存できなくなる一方、生育や増殖に酸素を必要としない嫌気性生物は深海に生息し、光エネルギーや無機物の酸化エネルギーを要さずに二酸化炭素を炭素化合物として貯留する「炭酸暗固定」を行っている。

研究チームの測定結果によると、海底の堆積物の有機炭素には、海面から沈んだ有機物質だけでなく、嫌気性生物の炭酸暗固定によるものも含まれており、その割合は全体の17%程度を占めていた。

「デッドゾーン」を予測する既存のコンピュータモデルでは、嫌気性生物の炭酸暗固定が考慮されていない。研究チームは、測定結果をふまえて「実際の『デッドゾーン』の酸素需要量は予測よりも高く、より深刻な酸素不足に陥り、『デッドゾーン』が予測よりも広がるおそれがある」と警鐘を鳴らし、「デッドゾーン」の予測精度を向上させるべく、コンピュータモデルの見直しの必要性を訴えている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送 -EUが米ファイザーRSVワクチン承認拡大、

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン

ワールド

メキシコ政府、今年の成長率見通しを1.5-2.3%

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中