最新記事

ヨーロッパ

EU諸国の無策で再び訪れる欧州難民危機

The Next Wave of Migrants

2019年12月5日(木)19時20分
ジェームズ・ブレーク(ジャーナリスト)

magw191205_migrants2.jpg

北マケドニア経由でセルビア入りした難民が警察のチェックを受けるため列に並ぶ(2015年) MARKO DJURICA-REUTERS

北アフリカの国リビアには、アフリカ諸国からヨーロッパを目指す人が集まってくる。彼らは地中海を渡る船に乗るまでの間、密航業者が運営する施設に収容されるが、その環境は「衝撃的なレベルだ」と国連は報告している。

ドナルド・トゥスクEU大統領は2017年に、地中海中央ルート(リビアからイタリアを目指すルート)を閉鎖すると発表。これを受け、リビア沿岸警備隊は密航船の取り締まりを強化した。密航船は拿捕され、人々は密航業者の収容施設に送り返され、十分な食べ物も医療も与えられない。

一方、トルコ当局の監視の目をかいくぐり、エーゲ海を渡ってギリシャに到着する難民は、再びじりじりと増えている。2019年1〜11月にギリシャの離島にたどり着いた庇護希望者は4万4000人と、既に昨年1年間の総数3万2500人を35%上回る。

このためギリシャの難民キャンプはパンク状態にある。ドゥニャ・ミヤトビッチ欧州委員(人権担当)は10月末、これらのキャンプは「大惨事の瀬戸際」にあると語った。これは難民認定手続きが長期化しているためで、ギリシャでは推定10万人が劣悪な環境のキャンプで暮らしている。

だがギリシャの新政権は10月末、難民審査の厳格化に踏み切り、難民申請者はこれまで以上に長く足止めを食うことになった。11月19日、ギリシャ政府は9月にレスボス島のモリア難民キャンプで発生した火災を受けて、キャンプの閉鎖を発表。2週間前にはギリシャ北部で冷蔵トラックの荷台に乗り込んでいた不法移民41人が警察に発見されたばかりだった。こうした事件が物語るように、危険をいとわず新天地を目指す人たちは後を絶たない。

今後数カ月、さらには数年間、ヨーロッパにはこれまで以上に多くの難民が押し寄せるだろう。イラク、シリア、イエメンで今も紛争が続く上、気候変動で居住不能になった故郷を捨てる環境難民が大量に出ると考えられるからだ。

EUは今そこにある難民危機だけでなく、今後の大量流入も見据えて、有効な対策を打ち出さねばならない。長期にわたる地球規模の大移動を見越した政策が必要であり、立案は困難を極めるだろう。だが立案できなければ、さらに多くの難民がさらに劣悪な環境に置かれることになり、難民の不満も一般の人々の排斥感情も高まる一方だ。

もちろん妥協が必要だ。ギリシャなど一部の国に負担を押し付けず、ヨーロッパの全ての国々が受け入れを進める必要があるのは明らかだが、EUが負担の分担で早期に合意をまとめることは望み薄だ。そこで4つの重要な課題に絞って議論を進め、具体的な施策を講じるよう提案したい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IBM、コンフルエントを110億ドルで買収 AI需

ワールド

EU9カ国、「欧州製品の優先採用」に慎重姿勢 加盟

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中