最新記事

日本経済

災害後の復興増税が誤った選択肢である理由

THE RIGHT WAY TO FINANCE DISASTER RECOVERY

2019年11月16日(土)13時40分
浜田宏一(元内閣官房参与、米エール大学名誉教授)
洪水

災害復興のための増税は景気後退期の緊縮財政並みに的外れだ SURFSHOP BOARDROOM VIA REUTERS

<けがをした子供に重いリュックサックを背負わせるべきでないように、経済が打撃を被っているときに増税を行うべきではない>

10月に日本を襲った台風19号は、各地に甚大な被害をもたらした。今後、気候変動の影響が強まれば、深刻な自然災害はさらに増加するだろう。災害からの復興には莫大なコストがかかるが、復興予算を調達するための増税は避けるべきだ。

2011年の東日本大震災直後、尊敬すべき経済学者である伊藤元重と伊藤隆敏が、将来世代の負担を増やさないために、国債発行ではなく増税で復興予算を賄うよう提唱した。多くの経済学者がこれに賛同した。

この考え方はとんだ間違いだった。財政の理論によれば、自然災害や戦争などの一時的なショックには、財政赤字を一時的に増やす形で対処するべきとされている。

財政赤字を増やさずに歳入を増やそうと思えば、大規模増税を行うほかない。しかし、それは納税者に負担を強いるばかりか、経済にもダメージを与える。よりによって経済が最も弱っているときに、市場のメカニズムをゆがめ、経済活動へのインセンティブを弱め、効率を悪化させてしまう。

災害復興のために増税するのは、景気後退期に緊縮財政を実施するのと似たようなものだ。ギリシャなどの例からも明白なように、経済が悪化しているときに歳出を大幅に減らせば、国民所得と経済成長に悪影響が及ぶ。その結果、政府は債務の返済にますます苦労することになる。

けがをした子供に重いリュックサックを背負わせるべきでないように、経済が打撃を被っているときに増税を行うべきではない。景気後退と同様、災害復興も永遠には続かない。財政健全化は、経済がそれに耐えられる状態に戻ってから行えばいい。

2011年に私がこのような主張をしたとき、日本のメディアはあまり取り上げなかった。財源の確保に血道を上げる財務省の影響のせいで、財政赤字を拡大して政府支出を増やしても消費刺激効果がないと思い込んでいるのだ。消費者は将来の増税を予測してどうせ消費に慎重になる、というのである。

政府が支出を増やすべきとき

しかし、この想定は現実離れしている。誰もがそんなに遠い先のことを――場合によっては自分の死後のことを――考えて行動するわけではない。現実の世界では、減税を行えば消費が増えて成長が促進される。

国債発行反対派は財政破綻のリスクも指摘するかもしれないが、そのリスクも一見するほど大きくなさそうだ。最近注目を集めている「現代貨幣理論(MMT)」によれば、自国通貨を発行する国が財政赤字により破綻することはないとされる(インフレに陥るリスクはあるが)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ

ビジネス

ECB、利下げ巡る議論は時期尚早=ラトビア中銀総裁

ワールド

香港大規模火災の死者83人に、鎮火は28日夜の見通

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中