最新記事

アメリカ経済

トランプがマイナス金利にご執心!?──日本はトクしていると勘違い?

Japan’s Topsy-Turvy Economy Is the United States’ Economic Future

2019年11月14日(木)16時38分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)

マイナス金利のコンセプト自体、常識に反している。後で返ってくる金が減るのに、金を貸す人がいるだろうか。2001年に東京金融取引所が取引ソフトを(マイナス入力ができるように)変更し始めた時には、懐疑的な見方が多かった。

だが金融システムの中では、投資家は幾つかの理由から少なくとも短期債についてはマイナス金利で買い入れをすることが分かった。そのひとつの理由は利便性だ。米国債など流動性の高い証券は、自己資本比率の基準をクリアするのに便利な保有手段だ。それに、マイナス金利も将来さらに引き下げられれば、債券の価値が上昇するというメリットもある。

マイナス金利が生む歪みは、金融システムに影響をもたらす。その第一の被害者が、国債の売買で利益を上げてきた銀行だ。重要な買い手は日本銀行だけで価格もほとんど変動せず、市場の流動性は失われている。

より大局的には、超低金利は銀行が利ザヤ(貸付金利と預金金利の差)を稼ぐのを難しくする。日本の優良企業は手元資金が506兆円もあるといわれ、銀行から金など借りてくれない。住宅ローン金利(固定金利)も0.8%前後で儲からない。銀行は利ザヤの縮小を理由に、リスクの高い中小企業や新興企業への融資は積極的に行わなかった。それこそ、日本経済の長期的な成長に必要だと、政府・日銀は奨励したのだが。

現代貨幣理論(MMT)の魅力

ではトランプはなぜ、この奇妙な世界に足を踏み入れたがっているのか。彼はドルの水準が高過ぎると強い懸念を示してきた。これについては、一部もっともな懸念でもある。日本政府は現在の円の対ドルレートが20年前からほぼ変わっていないと指摘したがるが、インフレ率を加味した実質実効レートでは、円は1970年代以降で最安値に近い。

トランプが低金利に関心を持つのには、もうひとつ考えられる理由がある。中央銀行が多額の国債を買い入れることで低金利を支えれば、国の借金返済はラクになる。財政赤字が1兆ドル近くに達するなか、これが連邦予算に持つ意味は小さくない。2019会計年度の米政府の債務返済コスト(利払い費用)は3760億ドルで、連邦予算の中で最も大きな割合を占める項目のひとつだ。

共和党は伝統的に政府の債務が大きくなり過ぎることを警戒してきたが、トランプが大統領になってからその慎重さは失われている。民主党の一部は、政府はインフレを引き起こすことなく、これまで考えられていた以上に多額の債務を抱え続けることができるとする説を支持しているが、この点においては共和党も実質的に同じ立場なのだ。

現代貨幣理論(MMT)として知られるこの考え方は、日本を「完璧なケーススタディー」だとしている。日本は対GDP比230%前後という高水準の政府債務を抱え、日銀のバランスシートも拡大を続けているが、急激なインフレが発生するリスクはほとんどなさそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中