最新記事

映画

『i―新聞記者ドキュメント―』が政権批判の映画だと思っている人へ

2019年11月26日(火)17時30分
大橋 希(本誌記者)

それよりも気になるのは、記者クラブの閉鎖性の問題だ。散々言われていることだが、実際になぜあれほど窮屈なのか、改めて疑問に感じる。森は官邸会見に入って望月を撮影しようとするが、いくら申請をしても会見への出席は許されない。官邸前の公道でカメラを回すことさえ、警備の人間に止められる。

webc191126-paper02.jpg

森は官邸前の公道でカメラを回していて警備の警察官に止められる © 2019「i-新聞記者ドキュメント-」製作委員会

少し話が飛ぶが、ここで日米のトップが似ている件が頭をよぎった――自分を批判するメディアを攻撃し(安倍晋三首相は朝日新聞を名指しでたびたび批判し、ドナルド・トランプ大統領は自分に批判的なニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストの購読を中止するよう連邦政府機関に求めた)、嘘をつき、自分の支持者以外を敵視する(国のリーダーとは本来、自分に批判的な立場の人にも公平に接するべき)、言葉に対する意識が低い(漢字が読めなかったり、だらだら答弁をする安倍と、中学生のような英語を話すといわれるトランプ)等々。一方、日本ではいま首相主催の「桜を見る会」問題で公選法違反などの可能性が指摘されているが、政権側はあらゆる言い訳を使って批判を逃れようとしている。「ウクライナ疑惑」で大統領の弾劾調査をしているアメリカのほうが、まだましと思ってしまう。

この違いは何かといえば、メディアと権力の関係も1つの要素ではないか。例えばアメリカなら、記者会見でのやり取りももっと自由にできる。疑惑の渦中にある大統領と、メディア幹部が密かに食事会をしたりしない。

監督自身は「政権批判の作品ではない」と言っているものの、望月が主人公となれば、「見たくもない」と言う政権擁護派もいるだろう。でも映画を見れば、森の言うことは本当だと分かる。政治的立場に関係なく、「i」の意味を考えることの大切さが提示される。最後の最後で、本当にどきっとさせられるのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、方向感欠く取引 来週の日銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中