最新記事
クジラ

地上最大・シロナガスクジラの心拍数測定に初成功:1分あたり2回まで減少

2019年11月27日(水)17時30分
松岡由希子

潜水時の心拍数は、1分あたり2回程度にまで減ることも...... Stanford-YouTube

<地球上で現存する最大の動物種シロナガスクジラの心拍数の測定に世界で初めて成功した......>

シロナガスクジラは、地球上で現存する最大の動物種である。その巨体を支えるメカニズムについては、長年、数多くの生理学者が関心を寄せてきたが、巨大なシロナガスクジラを研究所などで飼育することはできず、野生のシロナガスクジラに心拍計を取り付けてその生態を探るのも至難の業であった。しかしこのほど、世界で初めて、シロナガスクジラの心拍数の測定に成功したことが明らかとなった。

1分あたり2回程度にまで減ることも

米スタンフォード大学の研究チームは、カリフォルニア州モントレー湾で生息する推定15歳以上の雄のシロナガスクジラの心拍数と潜水深度を約8.5時間にわたって測定し、2019年11月25日、一連の研究成果を米国科学アカデミーの機関誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表した。これによると、シロナガスクジラの心拍数は、深く潜って採餌する際に減少し、海面にいるとき多くなることがわかった。


研究チームは、電極を埋め込んだ弁当箱サイズの測定デバイスに4つの吸盤を装着した専用タグを開発。これを6メートルの炭素繊維棒に取り付けて、6.3メートルのゴムボートからシロナガスクジラの左胸ビレに吸着させ、心拍数をとらえることに成功した。

シロナガスクジラは、最長16.5分間で最深184メートルまで潜り、獲物の群れに突進して海水ごと口内に含んで小魚やプランクトンを漉しとる「突進採餌」によって摂食した。潜水時の心拍数は、1分あたり概ね4回から8回だが、1分あたり2回程度にまで減ることもあった。

「突進採餌」で大量の海水をとりこむ際には心拍数が最小値から2.5倍に増え、海水を排水すると心拍数は再び減少。潜水を終えて海面に戻ると、心拍数は1分あたり25回から37回にまで増えた。一連の心拍数データを分析したところ、最大心拍数が予想よりも大きく、最小心拍数は予想より30%から50%程度小さかったという。

HeartBeat_Final-01.jpg

「シロナガスクジラの心臓はすでに限界に達している」

研究チームは、これらの研究結果から「シロナガスクジラの心臓はすでに限界に達している」との見解を示し、シロナガスクジラが現在のサイズよりも大きく進化しなかった要因とみている。

研究チームでは、今後、シロナガスクジラの活動が心拍数に与える影響を解明するべく、加速度計を付加した専用タグの改良に取り組むとともに、ナガスクジラやザトウクジラ、ミンククジラなど、他のクジラでも同様に、心拍数の測定を試みる方針だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中