最新記事

ノーベル賞

ノーベル経済学賞受賞「実証的手法で貧困と戦う」3人への称賛と批判

REVOLUTIONIZING GLOBAL POVERTY RESEARCH

2019年10月21日(月)17時20分
エレナ・ボテラ

10月14日の授賞者発表の模様。スクリーンの写真で中央のデュフロは史上最年少の受賞者だ TT NEWS AGENCY-REUTERS

<本当に効く貧困対策を探る3人の研究者は、エビデンスより理論と直感に基づく傾向があった開発経済学を変えてきた。だが批判もないわけではない>

スウェーデン王立科学アカデミーは10月14日、今年のノーベル経済学賞をマサチューセッツ工科大学(MIT)のエステル・デュフロ教授とアビジット・バナジー教授、ハーバード大学のマイケル・クレマー教授に授与すると発表した。ランダム化比較試験(RCT)を用いて、世界の貧困問題を緩和するために有効な方策を明らかにする手法が評価された。

デュフロとバナジーは、MITの貧困対策研究所の共同創設者。クレマーも同研究所の論文にたびたび共同執筆者として名を連ねてきた。46歳のデュフロは、1969年の第1回受賞者発表以来最年少、女性としては2人目のノーベル経済学賞受賞者だ。

RCTが普及する以前の開発経済学は、エビデンス(科学的根拠)より理論と直感に基づいて結論を導き出す傾向があった。実証実験で貧困対策プログラムの有効性を知ろうとするRCTは、開発援助の在り方も変えつつある。

目標があまりに控えめ?

デュフロらの研究は、さまざまな貧困対策プログラムの有効性を裏付けた。例えば、インドの学校にカメラを設置すると教員の欠勤が減って子供たちの成績が向上する、ケニア西部では肥料の使い方によって農家の収入が増える、子供の腸内寄生虫駆除を行うと学校の欠席率が下がる、などが分かった。

一方、実験のデータを見る限り、成果をあまり生まないプログラムがあることも明らかになってきた。例えば、ペルーの小規模事業者に起業家教育を実施しても、収益はそれほど大きく伸びなかった。ケニアの学校教員に性教育の研修を行った実験でも、10代の妊娠が減ったり、性感染症の感染率が下がったりする効果は表れていない。

それ以前の開発経済学者たちと異なり、専門知識よりデータに重きを置くデュフロらのアプローチの謙虚さを評価する論者もいる。3人の受賞者は、各地域の政府や団体とのパートナーシップ構築にも成功した。

ブルームバーグ・オピニオンのコラムニスト、ノア・スミスは、デュフロらの功績を評価している1人だ。3人のおかげで、経済学が「貧困と不平等」に注意を払い、「実証データと因果関係」を重んじるようになったと、スミスはツイッターへの投稿で指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、与那国のミサイル配備計画を非難 「大惨事に導

ワールド

韓国外為当局と年金基金、通貨安定と運用向上の両立目

ワールド

香港長官、中国の対日政策を支持 状況注視し適切に対

ワールド

マレーシア、16歳未満のSNS禁止を計画 来年から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中