最新記事

宇宙

小惑星に人工物に衝突させて、地球への衝突を防止する実験が開始間近に

2019年9月24日(火)19時00分
松岡由希子

宇宙探査機を小惑星に衝突させて軌道を変える...... ESA

<アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)による、小惑星に人工物を衝突させ、その軌道を変える実験がいよいよ開始間近となっている......>

地球近傍天体(NEO)とは、地球に接近する軌道を持つ小惑星や彗星などの天体を指し、地球に衝突すると甚大な被害を引き起こすおそれのあるものもある。そこで、地球近傍天体に属する小惑星が地球に衝突するのを防ぐ手段として有望視されているのが、小惑星に人工物を衝突させ、その軌道を変えるというアプローチだ。

宇宙探査機を衝突させて、軌道偏向を測定する

アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)は、地球近傍天体の「ディディモス」をターゲットとし、無人宇宙探査機を衝突させて、この衝撃による軌道偏向を測定するミッション「AIDA」に2015年から共同で取り組んできた。

ディディモスは、直径780メートルの「ディディモスA」と、これを11.92時間で周回する直径160メートルの「ディディモスB」で構成される二重小惑星だ。「AIDA」では、NASAの宇宙探査機「DART」を「ディディモスB」に衝突させ、ESAの宇宙探査機「Hera」がその衝撃による軌道偏向の計測などを行う計画となっている。

ESAの研究員イアン・カルネリ氏は、科学技術メディア「MITテクノロジーレビュー」において、「『AIDA』は、技術や科学にとどまらず、世界中の科学者や組織が恊働する取り組みとしても非常によい実験だ。このような動きこそ、小惑星の地球への衝突に備えるうえで必要だろう」と期待を寄せている。

STEROID IMPACT MISSION


「DART」は、2021年7月、スペースXの打ち上げロケット「ファルコン9」によってカリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地から打ち上げられ、2022年9月下旬に地球から1100万キロメートル離れたディディモスに到達する見込み。

「AIDA」では、「DART」を秒速およそ6.6キロメートルで「ディディモスB」に衝突させる計画だ。2024年に打ち上げられる「Hera」は、2026年にディディモスに到達し、「DART」が衝突した後の「ディディモスB」を観測する。

5E9.jpgNASA/Johns Hopkins APL

「リュウグウ」に生じたクレーターは想定より大きかった......

カルネリ氏が「MITテクノロジーレビュー」で指摘するとおり、これまでに研究されてきた技術やモデルが実際に機能するのかどうかが重要な問題だ。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が2019年4月5日、地球近傍天体の小惑星「リュウグウ」に金属弾を打ち込み、地表に衝突させた際、その衝撃で「リュウグウ」に生じたクレーターは想定よりもはるかに大きく、地表の物質が砂のように飛び散る様子も確認されている。

フランス国立科学研究センター(CNRS)の主任研究員パトリック・ミッチェル博士は、「『ディディモスB』は『リュウグウ』よりも小さいものの、同様に、重力が支配的な役割を担っているとすれば、実際には、我々のモデルや実験室実験で示されているものよりも大きなクレーターが生成される可能性がある」と指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中