最新記事

東南アジア

大河メコンを痛めつける中国とラオスのダム競争

Mekong in Trouble

2019年9月6日(金)16時30分
ルーク・ハント

漁獲量の減少が下流域の漁民に及ぼすダメージは大きい(メコン川で漁をするタイの漁民) Soe Zeya Tun-REUTERS

<中国やラオスのダムなどが原因で水位が大幅に低下──6000万人の生活を支える大河に異変が起きている>

東南アジアを流れるメコン川の水位が過去100年で最低にまで低下している。メコン川はチベット高原に源を発し、中国、ミャンマー(ビルマ)、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを経て南シナ海に至る大河だ。

農業や漁業などを通じてこの川に生活を依存している人は、流域で約6000万人に上る。この人たちにとって、水量の減少は死活問題になりかねない。

メコン川の水量を減少させた要因としては、今期の降水不足に加えて、上流の国々のダム建設を挙げる論者が多い。メコン川の本流と支流では、相次いでダムが建設されてきた。計画中のダムも軽く100カ所を超す。

この夏の水位低下のきっかけになったと言われているのは、中国が7月の一時期、上流に位置する景洪ダムの放水量を半分に減らしたことだ。マイク・ポンペオ米国務長官は、メコン川の問題で中国への批判を強めている。「上流のダム建設ラッシュにより下流の水流が牛耳られつつある」と、7月末にタイの首都バンコクで開かれたASEAN関連外相会議で述べている。

同じく7月にラオス政府が水力発電用のサイヤブリ・ダムの試運転を開始したことも、水量の減少に拍車を掛けたとされる。ラオス政府はこのダムで電力をつくり、タイに販売して外貨収入を得ることを計画している。

希少動物にも危機が迫る

この大型ダムは、メコン川下流域の漁業に対して既に悪影響を及ぼし始めているようだ。

「サイヤブリ・ダムが建設される前は、川にたくさん魚がいた」と言うのは、カンボジアの漁民ソム・ナン(32)だ。「不安でたまらない。私たちはたくさんの資源を失ってしまった。未来にとってよくないことだと思う。(これ以上のダム建設は)もう勘弁してほしい」

確かに、ダム建設が川の生態系に及ぼす影響は見過ごせない。科学者によれば、メコン川に生息する水生生物の中には、カワゴンドウ(イラワジイルカ)やメコンオオナマズなど、絶滅の危機に瀕しているものも少なくないという。サイヤブリ・ダムの建設が決まって以降、科学者や環境保護活動家は警鐘を鳴らしてきたが、新しいダムの建設が続いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民

ビジネス

アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中