規制改革の大本命「スーパーシティ構想」で、日本の遅れを取り戻せ
なぜ今、スーパーシティ構想を進めなければならないのか
潜在成長率上昇に向けて
アベノミクスは、金融政策、財政政策、成長戦略という3本の矢から始まった。当初から、構造改革や規制緩和などを通じた成長戦略は、金融政策や財政政策に比べて時間がかかるとの見方があった。事実、アベノミクスがスタートして6年余りが過ぎた今も潜在成長率の向上は道半ばである。アベノミクス開始後の潜在成長率の内訳を見ると、全要素生産性(TFP)が大きく低下している。これを女性や高齢者の労働参加を中心とする労働投入が下支えしているものの、これら労働参加にも限りがあることからこの構図は長続きしそうにない。金融・財政政策の余地が限られる中、本命の規制緩和による生産性向上が急務になっている3。
取り残される日本の未来都市計画と技術革新
世界を見渡せば、既にAIやビッグデータなどの最先端技術を活用した都市プロジェクトが進んでいる。例えば、中国の杭州では、アリババが主体となり、道路のライブカメラをAIで分析することにより、警察への自動通報、信号機の切り替え、渋滞要因の分析などを行っている。カナダのトロントでは、GAFAの一角をなすグーグルが、あらゆる動きをセンサーで把握し、ビッグデータ解析を進めようとしている。
日本はそうした世界の先端都市計画から遅れを取っている。都市の競争力が相対的に落ちれば、外国企業の誘致は難しくなり、さらには日本企業の流出にも繋がる。
また、国家資本主義、開発独裁と言われる中国では、領域横断的な未来都市計画を強権的に推進している。
こうした世界のスピードに日本がついていき、日本発の技術革新を引き起こすためには、現行の特定領域の規制緩和だけでなく、包括的に、かつ迅速に動けるスーパーシティ構想を積極的に進めることが必要不可決だ。そうでなければ、第四次産業革命で訪れる技術社会から、日本は取り残されてしまうだろう。
今後の課題~合意形成と、実行スピード
スーパーシティ構想は、日本の成長戦略上、非常に重要な役割を果たすと考えられるが、実現までの道のりは険しい。
スーパーシティ構想は住民合意が前提だ。住民は最先端技術を活用した便利な生活というベネフィットを得る代わりに、自分が住む地域を未来都市社会実現に向けた実験場とすること、行動データなどの情報が取得されることなどを認めなければならない。グーグルが進めるトロントでの都市計画では、そうした個人情報提供への懸念から、住民による反対運動が起こり、計画は思うように進んでいない。
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3 矢嶋康次・鈴木智也『6月閣議決定に向けて議論が加速する「骨太の方針」「成長戦略」』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2019年6月5日)