最新記事

海を覆い尽くす......アフリカからメキシコ湾までつづく巨大な藻のベルトが出現

2019年7月10日(水)18時50分
松岡由希子

カリブ海アンディグア島を覆う藻のベルト Mark Antigua-YouTube

<西アフリカからメキシコ湾にかけて、「大西洋サルガッサム巨大ベルト」と呼ばれる巨大な褐藻の塊が広がっていることが明らかとなった......>

西アフリカからメキシコ湾にかけて、巨大な褐藻の塊が広がっていることが明らかとなった。これは「大西洋サルガッサム巨大ベルト(GASB)」と呼ばれ、浮遊性のホンダワラ属の海藻「サルガッサム」が大繁殖したことによるものだ。

アメリカ南フロリダ大学の研究チームは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星から中分解能撮像分光放射計(MODIS)が2000年から2018年まで測定したデータを用いてサルガッサムの繁殖状況を分析し、2019年7月5日、学術雑誌「サイエンス」で研究論文を発表した。

8850キロメートルの巨大ベルトが出現

これによると、2011年以降、毎年夏に、海中でサルガッサムが大量に繁殖するようになり、2018年6月には、西アフリカからカリブ海を経てメキシコ湾にいたる8850キロメートルにわたり、重さ2000万トン以上のサルガッサムが群集する「大西洋サルガッサム巨大ベルト」が出現したという。

matuoka0710a.jpg

サルガッサムは、光合成によって酸素を放出し、これが群落を形成する藻場では、カメや魚、カニ、イルカなど、様々な海洋生物が生息している。しかし、大量に繁殖すると、海洋生物の移動や呼吸を妨げたり、大きな塊となって海底に沈んでサンゴや海草を窒息させるおそれもある。

島国バルバドスでは、国家非常事態を宣言

腐敗した大量のサルガッサムが海岸に漂着し、硫化水素を発することで、周辺住民や観光客の健康に害を及ぼす可能性もある。カリブ海の島国バルバドスでは、2018年6月10日、海岸に大量のサルガッサムが漂着したことで、政府が国家非常事態を宣言した。

2011年以前、サルガッサムのほとんどはメキシコ湾とサルガッソ海で観測されていたが、2011年、大西洋中央部など、それまで観測されていない海域でも、サルガッサムが大量に繁殖しはじめた。

RTS1X0LT.jpg

メキシコ湾を襲ったサルガッサムを撤去する人々 Israel Leal-REUTERS.2018.

ブラジルの肥料消費量の増加や森林減少率の上昇と相関関係が

研究チームではこの原因を解明するべく、ブラジルでの肥料消費量やアマゾンの森林減少率、アマゾン川からの流入量などを分析した結果、2010年以降の肥料消費量の増加や森林減少率の上昇とサルガッサムの大量繁殖に相関が認められた。

森林減少や肥料消費量の増加によって、春から夏にかけて、アマゾン川から海に栄養が過剰に流入し、冬は、西アフリカ海岸沖で、海水が深層から表層に上昇する「湧昇」の現象によって深海から海面に栄養が移動する。研究チームは、このように海中の栄養が豊富となることで、サルガッサムが大量に繁殖しているのではないかとみている。

気候変動と関連。今後は常態化か

研究論文の共同著者でもある南フロリダ大学のチュアンミン・フー教授は「この現象は結局、気候変動と関連している。なぜなら気候変動によって、降水量や海洋循環はもとより、人々の行動までも影響を受けるからだ」としたうえで、「過去20年の観測データによれば、『大西洋サルガッサム巨大ベルト』は今後、常態化するだろう」との見方を示している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 予想上

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中