最新記事

宇宙ステーション

米国防総省、モジュール型宇宙軍事基地案を募集

2019年7月9日(火)18時45分
秋山文野

空軍はもともと、ダイナソー計画という独自の有人宇宙船開発を持っていた。しかし60年代に入って有人月面探査計画が始動し、アポロ計画の前段階であるジェミニ計画の宇宙船を利用すれば、より短期間で開発が可能だと考えられた。MOLは有効径152センチメートルの望遠鏡を備え、2人乗りのジェミニ B宇宙船と接続されている。30日間のミッションが可能で、現在の国際宇宙ステーションと同様に地球を南北に周回し偵察任務を実施する予定だった。

1960年ごろから始まったMOLの開発計画は、実現前の1969年に終了した。ベトナム戦争によって予算が逼迫する中、ジェミニ宇宙船を流用するとはいえ、費用のかさむ有人宇宙計画を実行できなくなったためだ。宇宙船を南北の軌道に乗せるには、フロリダ州ではなくカリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地に打ち上げ射場の新設が必要で、こうした費用もかかった。

現代の軍事宇宙ステーションを誰が作るのか

MOLを開発したのは、ジェミニ宇宙船を開発したマクダネル(現:ボーイング)だ。ボーイングは国際宇宙ステーション(ISS)の開発主契約者でもあり、現代でも有人宇宙船の開発技術を持っている。では、オービタル・アウトポスト計画に参加するのもこういった企業なのだろうか。

オービタル・アウトポスト計画の募集が始まる直前の2019年6月21日、NASAはISSに民間の宇宙モジュールを追加する計画を発表し、参加企業の募集を開始した。ISSのノード2、またはハーモニーモジュールを開放して接続できるようにするという。6月に発表されたISSに滞在する宇宙旅行の開放と同様に、商用化政策の一環だ。

こうした民間のISSモジュール開発に参加している企業には、将来の宇宙ホテルを構想し、ISSで有人滞在モジュール実験が3年目を迎えたビゲロー・エアロスペースや、2019年後半から民間エアロック「ビショップ」の実証を開始し、商用有人施設の計画を持っているナノラックスなどがある。NASAとDoD、ほぼ同時期に宇宙ステーションの提案を募集していることから、同じ顔ぶれがDoD側宇宙ステーションに参入してくる可能性はかなりあるだろう。

NanoRacks-ISS-Airlock-Module.jpg

ナノラックス開発によるビショップエアロックモジュール Credit: The Huston Chronicle

NanoRacks-Bishop-Airlock-on-the-ISS-slide.jpg

Credit: NanoRacks

beam_berthed_to_iss_aft_port_node_3_concept_art_b_003.jpg

ISS取り付けから3年目を迎えたビゲローの宇宙モジュール。将来は宇宙ホテルとしての使用も考えられている。Credit: NASA


ナノラックスは、NASAのISS商業モジュール提案募集の際、参入への意欲は語りつつも「NASAは地球低軌道がすぐに儲かるビジネスの場になると期待しすぎではないか」と釘を差した。新興の企業からすれば、ISSに参入したからといってすぐ利益を出せるビジネスが育つとは限らない。NASAには、長期的にしっかり育てるつもりで支援してほしいというのが本音だろう。

そこに、将来の利用を見越してDoDが別の資金を供給すれば、双方歓迎ということになるのではないか。60年代、NASAがジェミニ宇宙船を育て、空軍がそれを改良して利用するという計画は実現しなかった。だが、そうした軍民相乗り型の宇宙開発が有人宇宙の分野で再び行われようとしているのかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中