50年前の今日地球帰還、アポロ11号の知られざる危機が今になって明らかに
問題が改修されたのはアポロ13号になってから
当時、NASAの電子システムおよび安全担当エンジニアだったゲーリー・ジョンソン氏は、Eight Years to the Moonの中でこれが「ジェットソン・コントローラー(SMJC)」と呼ばれる、コマンドモジュールとサービスモジュールの分離を制御する機器の動作問題だと説明している。
「ジェットソン・コントローラーは4つのスラスター(RCS)を機体後部のマイナスX面方向へを噴射する。2秒後に4つのロール制御用RCSが噴射を開始し、5.5秒間のスピン安定マヌーバを行うことになっていた。この動作で、サービスモジュールに残っていた推進剤を使い切ることになる」
しかし、データから一連のシーケンスを分析した結果、分離後に残っている推進剤が非常に少ないといった場合に、軌道変更が計画通り行われず、サービスモジュールの一部がコマンドモジュールに接触する可能性があることがわかった。マイスX面方向のRCSが25秒間噴射し、ロール制御RCSが2秒間噴射する設定に変更すれば、サービスモジュールは適切な軌道に入り、衝突を防ぐことができる。ジョンソン氏はただちに設計を見直したが、アポロ12号の打ち上げが迫っていた。12号に設計の改良を反映することはできず、実際に改修されたのはアポロ13号になってからだった。
恐ろしいことに、衝突を招くRCS動作の問題は、アポロ8号、10号でも同じようにあった。ただ、8号、10号では宇宙飛行士がサービスモジュールを目撃するという「問題に気がつくきっかけ」がなかっただけなのだ。アポロ8号から12号まで、12人の宇宙飛行士が地球を目前にして帰還できないリスクを抱えたまま飛行していたことになる。
ミッション後間もなく機密事項に
このインシデントに関する報告は、アポロ11号のミッション後間もなく機密事項に分類され、1970年11月まで公の報告書に記載されなかった。公開まで時間が経ってしまったことで、アポロ11号のエピソードとして注目されなかったのだろうとジョンソン氏はいう。
「2016年になって、古いアポロ時代のファイルを見直していたところ、問題の報告書を見つけた」というジョンソン氏は、2017年にNASAの新型宇宙船「オライオン」のサービスモジュール開発エンジニアにこの件を教えた。オライオンの開発チームは、設計の段階では分離後のサービスモジュールに、スラスター噴射による機体の制御が必要だという具体的な要求項目はなかった話したという。分離後のサービスモジュールがコマンドモジュールに接触する危険を指摘した文書もなかったため、オライオン開発チームは、ジョンソン氏の知見を機体設計に取り入れることになった。
「失敗から学んだ知見は、自由に利用し共有できるようにするべきだ」というジョンソン氏の報告は50年を経て宇宙工学の専門誌に掲載され、オンラインで誰でも読めるようになっている。