最新記事

児童移民

トランプ政権が生んだ、命も危ない児童移民収容所

8-Year-Old Migrants Being Forced to Care for Toddlers in Detention Camps

2019年6月24日(月)16時15分
ニコール・グッドカインド

檻に入って、トランプ政権の児童移民の扱いに抗議する人々(6月17日、スイス)Denis Balibouse- REUTERS

<メキシコとの国境からやってきた移民の子供たちを収容する施設の非人道的な環境が明らかになった>

メキシコとの国境からやってきた移民の子供たちに対する非道な扱いをめぐって、トランプ政権に対する怒りが沸騰している。テキサス州にある児童移民を収容する施設では食料、水ともに不足し、衛生状態は劣悪で、子供が幼児の子守りをさせられているという。

AP通信によると、ある法律家のチームが、テキサス州エルパソ近郊の児童移民施設に収容された60人の子供たちにインタビュー。収容所生活の衝撃的な実態を明らかにした。

あるケースでは、10~15歳の3人の少女が、「パンツはおもらしで濡れたまま、替えのおむつもなく、粘液まみれのシャツを着た」男児の世話を任されていた。

少女たちの話では、国境警備隊の警備員が2歳のこの子を連れてきて、「この子の世話をしたい子は?」と尋ねたという。「最初は別の子が面倒を見ると言っていたけど、数時間で興味を失くしたので、昨日から私が面倒を見ている」と、一人の少女は弁護士に語った。

この子供たちは、親の同伴なしで単独で国境を超えようとしたか、2018年にトランプ政権が行った親子引き離し政策の犠牲者だ。国内の強い反発からトランプ政権は引き離しを撤回し、既に引き離された親子を再会させようとしているが、再会に失敗したままの子供たちも多いのだ。

米政府の規則では、米税関・国境取締局(CBP)管轄下の国境警備隊は、子供を拘束した場合、72時間以内に身柄を米保健福祉省に引き渡さなくてはならないのだが、毎月子供だけで数千人という移民が押し寄せて手が回らないのだ。

子供たちが法律家たちに語ったところによると、収容所の食事は、凍ったままだったり、白米だけだったりするという。着替えやシャワーは不定期にしか与えられない。

子供たちのうち15人がインフルエンザにかかっており、隔離された子供も他に10人いた。

【参考記事】オカシオコルテスの過激発言が波紋「まるで強制収容所」

心の傷が長引く可能性も

こうした扱いは、子供の精神的外傷になりかねない。「子供に子供の世話をさせることは、大人や政府がその責任を放棄し、裏切ることを意味する」と、アメリカへの亡命を求める親子約50人を診察した経験のあるサンフランシスコの精神分析家、ギルバート・クリマンは言う。

米議会議員や権利擁護団体は、連邦政府の保護下にある子供たちを「心的外傷をもたらしかねない危険な状況」に陥らせた責任は、トランプ政権にあると激しく非難している。

民主党のラウル・ルイス下院議員は本誌に声明を寄せ、「アメリカ南部の国境地帯における危機は深刻であり、CBPは子供の人道的ニーズを満たせていない」と述べた。「食料も水もなく、衛生的でもない環境で暮らしている事実は容認できない。野蛮で、アメリカの価値観に反する」

人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチで子どもの権利に関する上級顧問を務めるマイケル・ボシュネクは、子どもたちがエルパソの施設で「危険な状況」に置かれていることをツイッターで警告した。

「移民の収容施設は子供にとって過ごしやすい環境ではない」と、アメリカ小児科学会移民健康特別利益団体で共同議長を務めるジュリー・リントン博士は言う。

「こんな環境は子供にとって不健康であるばかりか、安全でもない」

20190702issue_cover200.jpg
※7月2日号(6月25日発売)は「残念なリベラルの処方箋」特集。日本でもアメリカでも「リベラル」はなぜ存在感を失うのか? 政権担当能力を示しきれない野党が復活する方法は? リベラル衰退の元凶に迫る。


ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中