犬連れ参拝客に人気の神社が「ペット連れ禁止」の苦渋の決断
「させないの工夫」と失敗した時の「バックアッププラン」
神社の声明にもあるように、この日も大半の人がマナーをしっかり守っているように見えた。ただ、残念なことに、境内の立派な杉の木にマーキングさせているのを一度だけ見てしまった。こうした糞尿の問題は禁止措置の核心に当たるので、川原さんに具体的に解説してもらおう。
「マーキングをしないようにしつけるのは、去勢をしていなければ難しいです。ですので、一緒に出歩くなら去勢(メスの場合は避妊。マーキング対策だけでなく、健康管理面などからも多くのしつけの専門家や獣医は勧めている)が大前提になります。それでも、犬は放っておいたらマーキングをしたがりますから、飼い主がそれに付き合わないことが大切です。しつけるというより、飼い主の歩き方の問題。『あっちの臭いをかぐの?』って一緒に行っちゃたら、そこでマーキングするのは分かりきっていますよね?なので、付き合わずにまっすぐ歩く。それで犬が諦めたら、褒めてあげます」
排泄の方のおしっこ・うんちについては、現地に着く前に差し支えのない場所でさせておくのが望ましい。「それでも生理現象ですから、万が一しちゃったら、流せるような地面ならば水で流す。アスファルトなど水を流しても単に薄まって広がってしまうような場所なら、トイレシーツでなるべく尿を吸収して、水で流して、さらにもう一度吸収するくらいのことはしてほしいと思います」
なるべく外出先で周囲に迷惑をかけないようするためには、犬がよくしつけられているのが理想だ。とはいえ、「しつけのプロではないから、そんなに完璧にはできない」という飼い主が大半であろう。
「外に一緒に連れていくからには、自分の子供でも犬でも、最低限のお出かけマナーを身に着けていたほうが、自分も周りの人も気持ちよく過ごせると思います。でも、ロボットではないから完璧にはできませんし、不測の事態もあるのが当然です。絶対に完璧に仕上げてからお出かけしましょう、ということではなくて、できるだけお家で練習して、お出かけにチャレンジするくらいの気持ちがあれば良いのではないでしょうか」と川原さん。
そのうえで、「ワーストケース・シナリオではありませんが、先ほどのトイレのケースのように、不測の事態を予想して、『こうなってしまったらこうする』というバックアッププランも用意しておいてほしいと思います」と語る。
「犬を飼っている人は皆同じ船に乗っている」
国際経験豊富な川原さんも指摘することだが、海外の宗教施設は、ほぼ例外なくペットの入場は禁止されている。一方、日本の神社仏閣、特に神社は、これまでの三峯神社のように、入場が黙認されていたり、ペットのお祓いまでしてくれるペットフレンドリーな神社も散見される。神道の根幹にある自然信仰も関係していると思うが、「境内」の捉え方の問題もありそうだ。
「ドイツでは、ほとんどの公共の場所に犬が入れますが、食べ物を扱うスーパーやパン屋さん、そして教会は入れません。神聖な場所であると同時に建屋の中だから、それは受け入れやすいと思います。でも、神社の境内って屋外ですよね。外の散歩の延長という意識が飼い主の側にあるような気がします」と川原さん。神社側から見れば、鳥居の内側の「境内」は、教会の建物の中と同列である。神社の存在が身近すぎるが故に、我々日本人はそこを理解しきれていないのかもしれない。
「禁止されていないから、入場OKだから、マナー違反も許される」と考えるのは言語道断だが、逆に杓子定規に「とにかく犬はダメ」と拒絶するのも、三重県の商店街で最近話題になった、公道に飛び出した看板を実力行使で撤去する「正論おじさん」の騒動ではないが、生きにくい世の中を自ら作ることにつながりかねない。
「どういうふうにしたら許されるか、という話ではありません。一人ひとりが歩み寄ることで、『ああやってマナーを守ってくれているのだったら、ワンちゃんが一緒に出てきてもいいな』と、気持ちよく受け入れてくれるような社会になってほしいと思います。ここで起きたことは、自分がやったことが返ってきて、自分の権利を狭めてしまったようなもの。犬を飼っている人は皆で同じ船に乗っているようなものだということ、そして、自分たちが悪いことをしたらその影響は自分に返ってくるということを再認識したいですね」(川原さん)